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…もまた覗く

プロレスファンから観た『ピースメイカー』

※映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』の大枠ネタバレと、ドラマ『ピースメイカー』の微ネタバレがあります。ストーリーを楽しむ邪魔にはならない程度のネタバレに抑えているつもりですが、気になる方は以下をスクロールしないようにお願いいたします。

 

ドラマ『ピースメイカー』とは

2023年1月現在、U-NEXTで配信されているドラマ『ピースメイカー』は、DCコミックスのヒーロー映画『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』に登場したキャラクター「ピースメイカー」(演:ジョン・シナ)のスピンオフドラマシリーズ(全8話・シーズン2制作予定アリ)。Youtubeでも購入視聴できます。

 

脚本・監督は映画同様ジェームズ・ガンが担当。映画撮影の途中から企画が進行していたとのこと。
ピースメイカーというキャラクターは、DCコミックスに1966年に登場した同名マイナーキャラクターがデザインの元ネタではあるものの、キャラクター性はほぼ映画オリジナル。現在コミックに登場しているピースメイカーは、映画をきっかけにコミックに設定等が逆輸入された形のちょっと珍しいキャラクターになっています。スーサイド・スクワッドメンバーの中では、アニメオリジナルでコミックに逆輸入されたハーレイ・クインと少し似た経緯と言えるかも。
映画でのピースメイカーの活躍は以下の通り。

ピースメイカー(本名:クリストファー・スミス)は、父親によってあらゆる兵器と戦闘のプロフェッショナルへと育てられた、「平和のためなら女子供も殺す」暴力的な自称スーパーヒーロー。
その行き過ぎた自警行為によって収監されていた彼は、合衆国の極秘任務を担うタスクフォースXのメンバーへと抜擢され、南米の反米独裁国家で行われている宇宙生物兵器実験「スターフィッシュ計画」の施設破壊任務へと就く。だがその任務の途中、そもそも計画自体が合衆国政府の差し金で行われてきたものであることが発覚。上陸チームαのリーダー、リック・フラッグ大佐はこの事をアメリカのマスコミに暴露すると決意し、任務からの離脱を宣言するが、それを止めたのはピースメイカーだった。ピースメイカーは大佐を殺害し、仲間達をも手に掛けようとするが、βチームのリーダー、ブラッドスポートとの戦闘で敗北。狙撃を受け、塔の下敷きとなった。
……が、ピースメイカーは一命を取り留めていた。生き延びた彼にはタスクフォースXから新たな指令が下る事となる……

で、彼の新たなる任務「バタフライ計画」と、アサインされたチームの顛末を描いたのがドラマ『ピースメイカー』ということになります。

ピースメイカー、その見た目は原色のガンダムカラーコスチュームに銀色のヘルメット、親友の白頭鷲アメリカの国鳥)「ワッシー(原語ではEagly)」を連れた謎のマッチョ男性。戦闘のプロフェッショナルだが超能力的なものは無し。白ブリーフでウロウロしたりするような奇行に類する行動を平気でする、他人から見れば何を考えているのかいまいちわからない性格。本人自体に悪気は無さそうなものの、性差別、人種差別を始めとしたあらゆる差別的言動と陰謀論を信じ込んだいわゆるオルタナ右翼言動が凄まじく、故に現代では口を開くたびに他人とのコミュニケーションに躓く。時代遅れの差別用語を普通に使い、下ネタや外見のいじりで他人をからかい、「男らしさ」を誇示するような会話しかできない。本当に困ったどうしようもないヤツなのだけど、ただなぜかいつもどこかに寂しさ、繊細さを感じさせるようなところもある……というキャラクター。
『ピースメイカー』はジャンルとしてはヒーローものであり、SFアクションに分類されるだろう。そのジャンルムービー(ドラマ)としてのストーリーの軸となるのが、「人間に寄生する異星人の侵攻を食い止める極秘任務」とすれば、感情劇としての軸はピースメイカーの生い立ちを巡る物語と言える。
ピースメイカーに殺人と戦闘の訓練を施し、オルタナ右翼的な言動を刷り込み、特殊ギミックの付いた銀色のヘルメットや、派手な原色のコスチュームなどの装備を与えたのは、父親のオーガスト・スミス。
物語の進行と共に、この父親はただ単に差別的で攻撃的な人間というだけでなく、多数の信奉者を持つ白人至上主義の凶悪ヴィラン「ホワイトドラゴン」という正体があることがわかる。そしてその破綻した家庭でピースメイカーがいかに虐待的な扱いをされていたのかも……。
当初は、彼曰く"出来損ない"の息子ピースメイカーに協力的と思われたオーガストだったが、ある事件をきっかけに信奉者たち(KKKそっくり)と共に息子を殺すために動き出す……という流れに。
ピースメイカーは父親からの圧力を克服し、多様なチームメイトと協力して異星人の侵略を止めることができるのか?

 

youtu.be

ドラマ観るのめんどくさいな~という人はとりあえずこのOPだけでも観て帰ってください。カワイイから。

 

オルタナティブジョン・シナ」としてのピースメイカ

これは『ザ・スーサイド・スクワッド』を観た時からずっと思っていたことなんですけど、ジェームズ・ガン監督はこのピースメイカーというキャラクターを「裏ジョン・シナ」として当て書きで作ってますよね?

・強権的な父親に装備と原色のコスチュームを与えられた

・正義を志しているが権力に盲従する一面があり、自分の良心を裏切ってでも権力に「忠誠」を尽くしてしまう

差別まみれの言動は完全に「WWEスーパースター、ジョン・シナ」が言いそうにないことだけで構成されてはいますけど、原色カラーの社畜根性マッチョというキャラの根本は一緒じゃないですか。父親はどう見ても元WWECEO、強権で団体を支配し、スポーツエンターテインメント界を牽引してきた帝王、ビンス・マクマホンでしょう。
ちょっと待って、いきなり「社畜」とか酷いこと書くなよと思った人もいると思いますけど、これはまあシナがWWE王座を延々保持していた絶対王者時代に「CENA SUCKS!」とチャントしていたアンチ側はみんなそう思ってたと思うよ。
そう、私は現地観戦でしっかりCENA SUCKS側でチャントしていた者でございます。なぜなら試合が本当にシャレにならないくらいつまらないので……。
どんなハードスケジュールもこなす真面目な性格で、ビンス・マクマホンのお気に入りだからという理由で長々とRAWのメインを張り、WWE王座を持ち絶対王者として君臨していたシナ。当初はともかく、あまりに長く続くその予定調和ぶりに多くのファン……特に観戦歴の長いファンは飽き飽きし、次第にアンチが増え……というか爆増していった。
全然知らない人のために一応補足すると、2010年ごろのWWEテレビ放送は、『RAW』でも『SMACK DOWN』でもなんでも、とにかくシナが登場すると、「CENA SUCKS」のブーイングが起きて、それに対抗するように「LET'S GO CENA」の声援が高まり、交互に掛け合いのようなチャント合戦をする状態だったんですよね。SUCKSの声量が多すぎる会場の大会を放送するときは、音声編集でLET'S GOを足していたという噂がありますが、現地観戦した時の感じだと放送音声は毎度編集されてたんじゃないかな(お祭り的に人がいっぱい来るレッスルマニア本戦はともかく、オタクが多いRAWはさすがにSUCKSが勝ちすぎてた)。
シナはこの罵倒と声援が入り混じる状況に、「いずれにせよ自分を対象とした声である以上、両方プラスとして考えている」という感じのポジティブメッセージを出していた記憶がありますが(実際、シナが嫌いなら対戦相手の応援をしろよという真っ当なご意見もあるのだけど、どうせ会社の意向が~と思うと対戦相手に感情移入もしにくいのだ)、でもまあ数万人に「最低クソ野郎」みたいな罵倒されて楽しいわけないんだよな。
なのでドラマ内でピースメイカーが独り「本当は誰もオレのことなんか好きじゃないんだ」と涙ぐんでいたシーンを見た瞬間、私はこれらのことがぶわっと脳裏によみがえり、初めてSUCKSとか言って大変申し訳なかったと思いました。でも当時のあんたの試合はマジでシャレにならないほどつまんなかったし、何が嫌って「どうせビンスの意向は覆せない」という諦念を抱えて番組を追い、試合を観ることが嫌だったよ。こちとらサラリーマンとしてサラリーマン社会を忘れたくてプロレスとか観てるんで……。
WWEってずっとそうじゃん! と言われればそうだし、私の海外で一番好きなプロレスラーであるクリスチャン・ケイジはビンスに嫌われていたため、WWE王座に次ぐ第二の王座、世界ヘビー級王座すらデビュー14年後に親友エッジ引退の棚ぼたというチャンスが来るまで待たねばならなかった。PEEPS(クリスチャンのファンの総称)としてこの辺の恨みも勿論ある。実力、会場人気に申し分のないクリスチャンは、それまで延々と他の中堅用王座を獲り続けていたため、彼以降あまり出そうにない(今はもう廃止された王座とかもあるので)グランドスラム保持者となっている。ビンスの好き嫌いは絶対。でも失敗したな~と思ったらすぐ引っ込める理性がゼロ年代半ばまではあった。アンダーテイカーの偽物みたいなギミックの人とか(名前忘れた。ブライアン・リーではない)。比して、シナ政権はあまりにも長すぎた。

寄り道になるが、CMパンクという大変困った人の話も少ししなくてはならない。
CENA SUCKSというチャントが会場の大半を占め、観客のシナへの不満が度を超えて高まっていたものの、相変わらずビンスが自らの意向を変える事が無かった2011年、前年より禁欲主義を謳う「ストレートエッジ」のギミックに転向したパンクは、その標的をシナに定める。得意のマイクを先鋭化させ、作られた王者シナとビンスを始めとしたマクマホン・ファミリー主導のWWE上層部批判を展開した。その「リアリティ」、観客の大半がWWEを観るにあたり当然のこととして受け入れていた暗黙の前提「ビンス・マクマホンの意向」を改めて公然と批判したパンクは、WWEにおける一種の革命を起こしたと捉えられ、アンチヒーロー的な人気を博した。

元々CENA SUCKS派である私がこの流れに喜んだかというと別にそんなこともなく、この仕掛けも含めてアンチシナの感情を宥めようとするガス抜きでしかないじゃん……というかなり冷めた反応だった。なぜなら私はTNAのオタクだったので。
PPVマネーインザバンクでシナの保持するWWE王座への挑戦権を手にしたパンクは、戴冠の暁にはベルトを持ったままROHか新日本に行くと発言した。んっ? おかしいですよね? WWEを辞めた人は大体TNA(現Impactレスリング)に行くじゃん。元祖ビンスへの反逆者、ジェフ・ジャレットが設立した団体TNAは当時、WWEに規模こそ全く及ばないものの、フロリダのユニバーサルスタジオ内に常設会場を持ち、テレビ放送やマーチャンダイジングの全国展開も行う米国第二のプロレス団体だった。準WWEクラスの給与と待遇があるのはTNAしかない。World Wrestling Entertainmentから「WWE」に名前を変え、放送内からも「レスリング」「プロレスリング」の言葉を徹底排除したWWEに対し、「プロレスリング」であることを強烈に打ち出したTNAは、その番組冒頭のオープニングで毎回こう宣言した。"TNA, WE ARE WRESTLING"と(これは2007年くらいの話)。
2005年のジェフ・ハーディーを皮切りに、クリスチャン、カート・アングル、ブッカーT、その他たくさんのWWEでの待遇に不満を持った大物WWEスーパースター達が続々とTNAに移籍して行った(クリスチャンはTNA登場の初マイクで「オレはレスリングを愛しているからここに来た、観客の皆と同じだ!」と叫んだ)。2009年にはハルク・ホーガン、2010年にはリック・フレアーの2大巨頭すらTNAに行ったのだ。
そういう団体があるのに、なぜ名前があがらないのか。おかしいですよね。
当時のWWEは絶対的鎖国体制を敷いており、番組中で他のプロレス団体の名前が出ることは一切なかった。だからROH、新日本の名前が出たのも画期的な出来事ではあるのだけど……それでもTNAの名前は出せないんだよな! マーチャンダイジングの競合だからROH、新日本はウォルマートのおもちゃコーナーには出展していないから名前が出たのだ。大手おもちゃメーカー、マテルと契約してアクションフィギュアをガンガン作ってたTNAはダメ。そりゃそうだ。ちょうどホーガンとネイチ(フレアー)のおもちゃめちゃくちゃ売ってる真っ最中だったからな。
要するにパンクは、決められた範囲の中でしか上層部批判をしない、作られたキャラクターだ。本物の革命家なんかじゃない。シナが作られた王者なら、パンクもまた同じだ。
確認するまでもなく、彼の型破りなマイクは入念な打ち合わせのもとに作成されたシナリオだ。それに命を吹き込み、多くの人に「シュートだ」と信じさせたのは彼の才能だろうが、本当のところはTNAの名前も出せないような虚構でしかない。
パンクの抗争相手はシナから次第にブレていき、それでも人気を博した彼は1年以上王座を保持した(勿論、ベルトを持ったままROHにも新日本にも行きはしなかった)。

ただ、シナへの不満のガス抜き役には本命スーパースターがいた。パンクはレギュラー出演者ではないそのスーパースターの代理、場繋ぎ的な役だったとも言える(が、アンチシナの勢いが強すぎて異常にハネてしまった)。本命がパンクと違うのは、結構な長期計画の元に「ガス抜き兼シナの格上げ」のアングルが構築されていたことである。
その本命こそ、アティテュード期の超カリスマスーパースター、ハリウッドに活躍の場を移した後はドウェイン・ジョンソンとして知られるザ・ロックだ。
2011年4月の年間最大PPVレッスルマニアに突如特別ホストとして召喚され、WWE復帰を果たしたロックは、シナを「子供向けの安っぽい男」としてこき下ろし、レッスルマニア本戦で行われたWWE王座戦シナ対ミズではミズに加担(試合がつまらなすぎてマジでシーンとしていた会場がロック様登場で大沸きしたのを覚えている現地組)。翌日のRAWでついに翌年、2012年のレッスルマニアで決着戦を行うことが早々に決定する。個人的には1年後のメインイベント決めるのってほんとどうかしてると思うし、実際批判も多かった。その1年誰が何をしても意味がないことになるからね。
「ONCE IN A LIFETIME(人生でただ一度)」と銘打たれたアティテュード期のスター対視聴年齢制限PG13のスターという構図は、ちょうどその10年前、2002年に行われた旧世代のスーパースター、ハルク・ホーガンザ・ロックにあやかろうとしているのもなんとなく透けて見えた(ホーガン対ロックで敗北を喫したロック様は、プロレス界でやることは終わったとばかりに映画界に去って行ったのだが……)。
そして予定通り行われた2012年のレッスルマニアXXVIIIメインイベントで、ロックはシナを破り、多くのファンの溜飲を下げた。ただそこで終わらなかったのがホーガン対ロックとの大きな違いのひとつだ。
翌年、2013年のレッスルマニア29で、再度リベンジマッチが組まれたのだ。ONCE IN A LIFETIMEとはなんだったのか。そこでシナはついにロックを破り、WWE王座を戴冠。二人のスーパースターは対等になったのだ、ということになった(少なくとも上層部はそうしたかったのだろう)。ファンがどう思ったのかは想像にお任せする。

時のスーパースター、ロック様が敗けてみんなガッカリして終わったホーガン対ロックよりはだいぶアップデートされたガス抜き&シナ格上げアングルではあるが、もうひとつ、ホーガン対ロックの過去対未来という単純なアングルとは別の構図がロック対シナにはあった。というか、アンチシナで結集したファンの中にあったひとつの「潮流」と言ってもいい。
このアングルの中でロックから飛び出したシナへの悪口の中でも特に印象深く、いまだによく覚えているものがある。

「紫色のTシャツ、その前は緑、その前はオレンジ、貴様はまるでクソデカい皿の中で走り回るフルーティ・ペブルス(カラフルな小石)だ!」

フルーティ・ペブルスというのは、アメリカにはそういう名前の子供向けシリアルがあるのだが、これは是非を超えて大変上手い表現だったと思う。

常に黒いコスチュームで巌のように硬い「岩(The Rock)」と対比した時、シナは安っぽいTシャツの子供向けな「小石」でしかない……要は「大人の男じゃない」という皮肉だ。「男達が支持するロック」対「女子供が応援するシナ」という構図である。率直に言ってかなり「女子供の客」をバカにしたアングルでもある。今思えば。
当時はシナの試合があまりにつまらんということでそういう観点を持てなかったことを反省しております。

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男らしさとは何か?
自惚れ野郎をぶちのめし、パイを喰らい、道を切り開き、片眉吊り上げ全てを打ち負かす、万人に選ばれし王者、ザ・ロックのことだ!(The jabroni beating, pie eating, trail-blazin', eyebrow raisin', all around, smack it down People's Champ, The Rock!)
そう謳いあげるロック様に深く頷いたファンも多いだろう。

 

……でもその「男らしさ」、本当に良いものなのですか? というのが『ピースメイカー』の主題だ。
男らしいザ・ロックの言動を煮詰めに煮詰めて有害さだけ残したキャラクター、それがピースメイカーだ、という言い方をしても良いだろう。
えーっと、そんなキャラクターを他ならぬジョン・シナが演じて、WWE的には大丈夫ですか?

 

『ピースメイカー』作中での倒置的言及

ここでようやく『ピースメイカー』の話に戻るが、第1話のファミレスでのチーム集合シーンで、遅れてきたピースメイカーがウェイトレスを「sweet cheeks」と呼びかけ、仲間達に「今時そんな表現使う?」と大顰蹙を買う場面がある。字幕では「ピーチちゃん」と訳されていたが、cheeks(sなので、ほっぺふたつ)のスラング的意味合いと会話の文脈を考えると「桃尻ちゃん」みたいなニュアンスですかね。ウェイトレスさんにそんなん言ったら普通に一発アウトのセクハラ表現。仲間達は「何を急に尻とか言ってんだ」と非難するが、自分がいきなり世間のアウトラインを踏んだことに逆に慌てるピースメイカー(出所したばかり)は「ほっぺがピンクだろ」と嚙み合わない返答しかできない。
このシーンでは続いて「シュガーパイって言うのと同じくらい失礼だよ」と言われて「不適切だぞ! 彼女はシュガーパイ=貧乳じゃない。シュガーパイって言うのは彼女のことだ(仲間の一人を指して)。あと厳密には彼もだ」とピースメイカーが返す「不適切」ギャグが挟まる。
かつてWWEWWF)の名物日本語訳会社ルミエールは、ザ・ロックの「pie eating」をそのまんま「パイを喰らい」としか訳さなかったが、きちんとpieのスラング的ニュアンスを拾えば「群がる女達をコマし」くらいが妥当か。それこそ『ピースメイカー』の作中内で発せられたら、仲間達にめちゃくちゃな顰蹙を買うセクハラ表現なのだ。それと似た台詞をジョン・シナが演じるキャラクターが言う。これは特に深読みせずともWWEザ・ロックへの倒置的言及のシーンと言っていいだろう。

アティテュード期的な男らしさは、言うまでもなく性差別や人種差別、労働搾取、様々な種類の(主にパワー)ハラスメントの上に成立していた。
近年それが非常にゆっくりとではあるものの揺らぎ始め、ついには2022年、女性部下との不倫騒動とその口止め料を会社の金で払ったとのことで、ビンス・マクマホンその人がWWEを辞任する展開ともなった。これは外部からのすっぱ抜きだったが、内部で通用していたことが、社会的に通用しなくなったということのひとつの証左でもあるだろう。
ロック様自身は潔白だろうとも、彼が君臨した「男らしさ」の文化は、もはや過去のものとなりつつあるのだ。

そしてもうひとつ、さすがにこれも倒置的言及だろうというシーンが『ピースメイカー』にはある。
オルタナ右翼のクソ男、ピースメイカーの愛すべき一面、それは音楽好きというところ。ピアノを弾くシーンもある。ちなみに実際シナ自身もピアノが弾けるため、吹替ではなく本人が演奏しているとのこと。
同じく第1話、刑務所から出所したばかりで性欲が溜まっていた彼は、チームメイトのエミリアに粉をかけようとして振られ、同じバーにいた女性をナンパして彼女のマンションへ行く。この流れで、全裸で腰を振りながら「フリーダム!」と叫んで射精する役をやるジョン・シナ、という衝撃シーンがあるのでWWEファンは皆見たらいいと思う。
事後、彼女の収集していたレコードの棚を見つけたピースメイカーは、その中にプリティ・ボーイ・フロイドの一枚を見つけて「趣味が合うな」と大喜び。
そう、ピースメイカーの音楽の趣味はグラム・メタルなのだ。髪を伸ばし、化粧を施し、愛についてブルージーに歌い上げ、見た目が厳ついヘヴィメタルに比べれば女性的で、かと言ってグラムロック的なオシャレ感とも無縁な音楽ジャンル。
同じくグラム・メタル系のバンド、クワイアボーイズの「I Don’t Love You Anymore」をプレイヤーにかけ、白ブリーフ一丁のまま踊りながら歌い出すピースメイカー。ここはほんとに美しいシーンなので是非見て欲しい。ていうか『ピースメイカー』を見て欲しくて書いてるんだよこれ。
まあSFアクションドラマなので、ナンパした彼女は異星人に寄生されており、白ブリーフのまま戦うハメになるという展開なのだが、それはさておき、後の回でピースメイカーがグラム・メタルを好きなのは、亡き兄の影響だということが明かされる。
幼い頃、レコードをかけながら兄が言った言葉をピースメイカーは覚えている。

「女々しいけど、これもロックだ」

フルーティ・ペブルスもまたロックである……ということを、ジェームズ・ガンは10年の時を超えてザ・ロックに申し上げているのだ。
「女々しい」は原語だとBitchって言ってますね。併せて言及するなら、ロック様のシナ物真似は総じてなよなよした「女らしい」動きを伴うものだった。
ピースメイカーというキャラクターは、WWEの子供向けスーパースター、ジョン・シナが絶対にやらない、やってはいけない言動を踏み抜いて行く裏バージョン的な当て書きで造られているのではないかという仮説を上に書いた。
2011年、ロック様はシナに言った。「オレ様と貴様はやることなすこと正反対」と。
ハリウッドスターになってからは寡聞にして存じ上げないが、かつてのロック様は共和党支持のタカ派として知られていた。WWE自体、陸軍慰問公演がトリビュート・トゥ・ザ・トループスとして年間行事に含まれているゴリゴリの保守、共和党とは昵懇にしてきた歴史がある。トランプ元大統領もHOFだしね。
ピースメイカーは、要するにWWEの「そっち側」の要素の集合体だ。
保守、家父長制、性差別、LGBTQ+差別、人種差別、民族差別、ありとあらゆるトキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)。シナが彼岸にいないような書き方をしてきたが、当然WWEスーパースター、ジョン・シナもこうしたことには加担してきている。PG13になって以降のスターなので、アティテュード期に比べれば多少マシなだけ。
そしてWWEとスーパースター達、ピースメイカーを支配してきたのは、ビンス・マクマホン、彼にそっくりの強権的な父親。

そしてネタバレになるが、最終的にピースメイカーは父親を殺す(一応文字色反転)。自らの決断で。
作られた男らしさと決別し、人間らしく、自由に生きていくために。

 

……これ、どう思います?

ジョン・シナWWEを心から愛し、自らのホームとして規定する男が、どういう心境、どういう役解釈、演技メソッドでこのピースメイカーという役を演じたと思いますか?

フルーティ・ペブルスもまたロックである。「男らしさ」を捨てても、人間の男性として在ることはできる。そういったWWE在籍時には決して発することが許されなかったメッセージを送る作品を主演することについて、彼はどう考えていたのだろう。

肯定的……だったのではないだろうか。
というかそういったジェームズ・ガンが織り込んだであろうメタレベルの暗喩込みで役理解をしていないと、できないような繊細な感情表現をできているのだ、俳優ジョン・シナは。
『ピースメイカー』の中盤、彼の過去が明かされるあたりから加速度的に増していく切ないシーンの繊細な演技については言うまでもないが、一通り見終わった後には再度『ザ・スーサイド・スクワッド』に戻ってほしい。既に『ピースメイカー』を想定した演技が行われていることがわかるので。
市内での移動シーンで、ブラッドスポートとラットキャッチャー2の悲しい生い立ちを聞きながら、なんとも微妙な顔をしているピースメイカー。彼は無言だが内心ではブラッドスポートと同じ苦しみを背負う者として悲しみを抱き、またラットキャッチャー2に対しては哀れな子どもに優しくしたいと強く願っている。
職務に殉じ、大佐を殺そうとする時の見開かれた目。ピースメイカーは、本当は大佐のような人間が好きなのだ。
シナの演技は言外にそのことを視聴者に伝えてくる。

演技者としてのジョン・シナは、いつも同じ「ロック様」テイストを求められ、それに応え続けるドウェイン・ジョンソンよりも、かなり広いバリエーションを持っていると言えるだろう。
というか私の中では、演技という場においてはシナが圧勝している。
WWEファンこそ、『ザ・スーサイド・スクワッド』『ピースメイカー』を観て欲しい。

プロレス/格闘技業界は、日米問わずトキシック・マスキュリニティの坩堝だ。
2022年も、サイバーファイトはDV前科持ち性犯罪者を招致して挙句になんか事件を起こされて帰し、UFCデイナ・ホワイトは大晦日に妻を殴った。
勝者と敗者がいるスポーツ全般、基本的にはそうなのかもしれないが、勝負を「興行」としているプロレス/格闘技業界は、とみに強さ=男らしさを強調し続けている。そして男ではないもの、男らしくあることができないものを蔑み、何よりも自分自身の傷つきや間違いから目を逸らし、貶めることで傷を広げている。
トキシック・マスキュリニティ=有害な男らしさって結局なんなんだ、と思っている人もいるかと思うんですが、ものすごく単純・平易化して言うと、「無神経」ですよね。
「誰かが傷ついても気にしない」「自分が傷ついても見ないふり」で、自他の傷をどんどん悪化させていくのが有害な男らしさです。

少しだけ話を戻すが、そもそもなにゆえWWEがロック対シナのアングルを組み、2011~2012年の丸2年をかけてまで「シナをトップで居続けさせる」というビンスの意向を守らなくてはならなかったのかと言えば、失敗を認められなかったからだ。客の気持ちに添っていない、情勢を見極められなかったという過ちから目を逸らし、「無神経」で押し通そうとしたかったということに他ならない。その間、傷つき続けたのは勿論、矢面に立っていたジョン・シナ一人である。


2022年もプロレス業界にとことんまで傷つけられた私は、男らしさよりも優しい人間らしさを選ぶ物語『ピースメイカー』を、元WWEスーパースターにして絶対王者ジョン・シナが演じたという事実にだいぶ救われた。
ありがとうシナ。
ありがとうフルーティ・ペブルス

彼が自覚的であったかどうかは勿論わからない。自分が主演した『ピースメイカー』という作品の在りようとその方向性に対して自覚的だったとして(そもそもジェームズ・ガンオルタナ右翼が大嫌いでレスバしすぎていることでも有名なので、そこを無視するのは難しいと思うが)、WWEのリングに帰ればここが故郷、ここを一番に愛していると高らかに叫ぶ彼もまた、イチプロレスファンである私同様、引き裂かれているのだと思いたい。他の何に対しても「男らしく」鉄面の無神経であることができたとしても、その裂け目は事実として存在し、痛み疼き続けるだろうから。

 

 

一応言い添えると、『ピースメイカー』はR15作品です。残酷表現、性的表現あり。

ジェームズ・ガン特有のやりすぎで嫌~な部分もあるし、あんまり万人向けとは言えないかも。
でも上記のような「ジョン・シナ」の抱えるテーマの他、ピースメイカーの人間の友達ヴィジランテとの関係や、黒人レズビアン女性アデバヨとの友情が築かれていくようす、それにもちろんヒーローもの、SFアクションとしても面白いので、興味を持った方は是非ご覧ください。『ザ・スースク』は観ておいて欲しいけど、まあ観なくてもわかると思います。

 

www.wwe.com

※ちなみにフルーティ・ペブルスはその後、シナとコラボしている。


2023/1/6 追記1:

この記事を書いてアップして寝て起きたらビンス・マクマホンWWE復帰宣言の一報が目に入り、大変に頭を抱えています。
復帰宣言というか、彼はいまだにB株(議決権等の権利強化株)の大株主なので、自分を執行役会長に戻す+子飼いの二人を取締役に据えないとメディア関連権利の承認を通さないと脅してきた感じですね。
まあ好き勝手に戻れるわけではなく、WWE現理事会の承認も必要なのですが、理事会は例の会社の金を愛人口止めに使った件の公式捜査が完了するまでは復帰を許さない、またそもそも復帰は株主の最善の利益にはなりえないということを全会一致で確認したとのこと。となると、展開によってはB株売却があるかも……ということで、WWEの株価が急上昇!
ビンスは自分が戻るという噂で株価が上がった~と喜んでそうだなあ。違うよ。
ていうかよもやのWWE分裂もあるかという展開を元CEOというか他ならぬビンス・マクマホンが仕掛けてくるとはですよね。しかも自分の愛人口止め料がきっかけというクソさがすごいな~……。

一応念のために書いておくと、私は一時期までのビンス・マクマホンのスターピックアップのセンスやスポーツエンターテインメント団体経営者としての体の張り方等々には一定以上の評価を持っております。でももうさすがに時代遅れなんだよ。戻ってきても良いことないよ。若者文化だって全然知らないらしいじゃん(インタビューソース失念して申し訳ないが最近そういう証言があった)。

あとロック様のことも大好きですよ。でも自分が客観的には「女子供の客」に分類されるという自覚を持ってからは、私のところに降りては来ないスターとして見ています。寂しいけど仕方ないですね。プロ格に限らずスポーツはとかくそういう人が多いです。

株価の話が出たので、ついでにロック対シナ期というか、シナ絶対王者期についてもう少し補足を入れます。
当時、会場で嵐のごとくCENA SUCKSチャントが起きていたのに対し、ビンスの意向一本鎗でシナを押し通していた訳ではありません。勿論ビンスの意向最優先だったことには変わりませんけど、一応別の理由づけもあったんですよね。
LET'S GO CENAの声援も一定以上あったことからわかるように、当然ながら彼は子供たちのスターです。
女性ファンもいたけど、基本的には子供というかファミリー層の支持が絶大だったという感じだったと思います。
シナはPG13のメイン視聴世帯、つまりファミリー向けのパッケージに最適化されたキャラクターでした。
言動の安全さ、試合内容も卑怯なことや残酷なことはしない保証つき(倒れた相手にストンピングすらしないで立ち上がるのをじっと待ってるからね)。カラフルな原色Tシャツは、黒赤白のWWEロゴに華やぎをもたらします。
親御さんとしても、スリーブタトゥーがびっしり入ったランディ・オートンのおもちゃは買い与えにくいけど、その点もノータトゥーのシナなら大丈夫。
PG13企業の顔として、汚いスラングと暴力、猥雑なソープオペラ的なドラマが混淆とするスポーツエンターテインメント、かつてのアティテュード期WWEのイメージを拭い去る超健全キャラクターだったわけです。
いやまあシナもちょくちょく下ネタとか、小学生レベルのいじりとか(近年ではセザーロことクラウディオ・カスタニョーリの乳輪がでかいみたいなしょうもないこと言ってたよな……)してたし、潔白では全然ないんですけど、ともかく上にも書きましたが、アティテュード期の大人向け不健全ネタの応酬に比べたら全然マシなので……。

だから、シナがトップにいると株主も安心。WWEの株価も安定。

これですよ。ビンスの意向+株価。他の人に王者を変えると株価が……と言われ始めたのはシナの頃からだったと思う。アティテュード期でそんなこと言ってるの聞いたことなかったよ。
ゆえに、シナのアプローチ対象外にいる成人オタクからしたら、何が悲しゅうてパワハラ上司の意向+経済的理由! みたいなサラリーマン社会の縮図をエンターテインメントの場で見せられなきゃいけないんだよ……! というムカつきが煮凝りのように溜まっていくわけですよ。ふざけんなよマジで(『ピースメイカー』台無しの思い出し怒り)。


しかし今こうして時系列に沿って思い返すと、シナの子供向け路線はある意味ではトキシック・マスキュリニティ緩和路線であったとも言えるし、ロック様をそこにぶつけたのはその揺り戻しだったと感じます。その流れを作ったのは、強権的なビンスの意向と、ファンの中に強く有り続けたマスキュリニティへの渇望。地獄のホモソーシャル組織とトキシック・ファンダムが相反する展望を持ちつつも有害な男らしさ満点の最悪スパイラルを作っていたという……言葉にすると改めて嫌すぎるな。
2023年現在はどうなんですかね。
正直、2013年にクリスチャンが半引退状態になってから、それまでのように詳しくは観ていないので、その後このWWEのトキシック・マスキュリニティを巡るバランスゲームがどのように遷移したのか、語ることはできません。
女性スーパースターが「ディーバ」という名称ではなくなったり、ウーマン王座戦レッスルマニアのメインイベントになったり、時代に合わせた変革は広がっているとは思います。ただその一方で、毎年なんらかの不祥事はあるし、ビンスの件の処理はだいぶ生ぬるかったし、そのせいで復活宣言もされちゃうし、ほんと一歩進んで二歩下がるじゃないけど、常に反動の波が吹き荒れ続けている世界であることには変わりません。少し気を緩めればすぐ前時代に戻ってしまう。

だから繰り返しになるけど、ほんとこの業界を長く見れば見るほど、ジョン・シナ主演『ピースメイカー』は奇跡のような出来事に思えるのです。
シナファンや、シナの動向をもっときちんとウォッチしてきた人からすれば、もう少し違う感想も出るかもしれません。でもそういう人が『ピースメイカー』を観てここまで長々文章を書いてくれる可能性は低そうなので、代わりに書きました。
あとこのエントリでは「シナの試合は超つまらない」を前提としていますが、そんなことはない、エキサイティングだ、彼の試合こそ至高だと言うファンもいるでしょう。いるだろうけど、まあ、正直つまんないよ。他の何を譲ろうとも、そこを譲る気はないな(トキシック・オタク)。

 

2023/1/6 追記2:

上で書いたアンダーテイカーの偽物の名前、わかりました。

「モルデカイ」だ!!!!!

「アンダーテイカー 白」で検索したら出てきました。そのまんま、白い服のテイカーみたいなゴスいギミックです。
2004年にWWEデビューしたモルデカイ、あまりにウケなかったので3カ月くらいで引っ込められてOVW(当時のWWEのファーム団体)に戻されて翌年解雇。2006年に謎の吸血鬼ギミックキャラクター、ケビン・ソーンとしてWWEECWに帰ってきたものの、やっぱり1年で解雇。うーん……。
ちょっと調べたのですが、以降インディ団体で活動を続け、元祖(?)吸血鬼レスラーであるギャングレルと吸血鬼タッグを組んだりもしていたようですね。2010年以降はスポット参戦のみで、年に何回かインディ団体で試合しているみたい。
まあ端的に言って色物専門レスラーなんですけど、売り出しが派手だったんだよね。テイカーの二匹目のどじょうを狙ったものの、失敗してしまったという例でした。
でもなんかプロレスを続けているみたいで良かったな。

マイケル・エルガンのan issueを巡る覚書

本日(7/22)、プロレスリング・ノアお問い合わせ窓口に下記のようなメールを送りました。
これまでの経験上、お返事は絶対に頂けないのはわかっているのですが、団体が持つ社会性への信頼が私の中にもかろうじて残っているため、正攻法アプローチとして送らざるを得なかったという感じです。

マイケル・エルガン選手のタイトル返上、大会欠場に関しての詳細説明を求めます。
周知のこととは思いますが、海外のレスリング系ニュースサイトから「窃盗を行った」という噂が流れ、その後本人によって「逮捕はされたが起訴されずに釈放された」という弁明がなされましたが、肝心の下記2点が不明のままです。

「そもそも何をして逮捕されたのか」

「タイトル返上、出場停止になったのはいかなる理由なのか」

細かい契約上のやり取りなどもあるとは想像できるのですが、こと犯罪に絡んでいる可能性が高い本件において、このまま御社が沈黙を貫き続けることは、公的秩序、道徳性の観点において、問題があると言わざるを得ません。犯罪を肯定していると取られても致し方ないところでしょう。また、もしエルガン選手が不当逮捕をされていたのであれば、彼の名誉を守るべきではないでしょうか?
この件において、少なからぬファンが説明が何一つなされないことに失望の意を示していることは、既にSNS等のサーチで把握されていることと存じます。
黙っていれば確かに時間経過で話題性は薄れていくものとは思いますが、一旦こうして失ってしまった信頼を取り戻すことは至難であり、また今後再度このようなことが起きた時に今回よりさらに厳しい追及がファンの間で起こることは間違いありません。
リングの上で誇りをもって戦う選手、団体を信頼し支えんとするファン双方のためにも、きちんと経緯の説明を行い、こうした事件の再発防止を策定すると誓っては頂けませんでしょうか。応援する選手、団体がこうしてグレーな状態のまま、非難に晒されているのを見ていることしかできないのは、非常に悲しく、耐え難いことです。
なにとぞご検討頂けますよう、よろしくお願いいたします。

ご検討も何もない…ということはわかるんですけど、手癖でこういう文章になっちゃうんですよね。でももうエモいことを書く気力はないので……。「支えん」がちょっとエモいか? どうでもいいかそんなことは。
毎回そうだけど、本名と電話番号晒して抗議送るの、ほんとやだ。こんなことはやりたくないので不祥事を起こさない団体であってください。

前エントリは参戦に対する抗議だったので、続編展開的になってしまうのですが、結局参戦3か月たたず何らかの問題を起こして帰国したらしきエルガンの件、あるいは問題を抱えた外国人選手とあえて契約しながらも管理できなかったNOAHの件に関して、時系列をここにまとめておこうと思います。
↑のメールにも書きましたが、時間経過で話題性が薄れて何がなんだかわからなくなる可能性が高いので、今後のために書き残しておく所存です。

 

エルガン王座返上&大会欠場時系列

4月8日
4.30 両国大会への参戦発表(7.16武道館大会までの出場契約との旨がHPに掲載される)

5月21日
大田区大会。マサ北宮選手とのタッグでGHCタッグ王座を戴冠

7月9日
有明で行われたファン交流イベントを欠席。翌日7.10富士大会も「諸事情により」欠場となるという公式アナウンスが出る。本来7.16武道館で初戦となるはずだったスタリオン・ロジャースとアンソニー・グリーンが急遽参戦へ

7月13日
「諸事情により」GHCタッグ王座返上、7.16武道館大会欠場の公式アナウンスが出る

7月14日
新日本プロレス参戦中のジェフ・コブが、G1直前会見で「オレからG1優勝を盗むことはできない、盗めるとしたらせいぜいがプロテインパウダーだな」と語る(ジェフは新日参戦時のエルガンと組んでいたが、自他共に認めるほど仲が悪い)

7月17日
海外のレスリング系ニュースサイトBodyslam.netのオーナー、Cassidy Haynesが「エルガンはプロテインパウダーの窃盗で逮捕され、起訴されれば懲役5年となる可能性がある」というニュースを自身のアカウントで流す


7月18日

エルガン自身が釈明。
経緯に触れている部分だけ簡単に書くと、「ある事件(an issue)」の取り調べを受けて拘留されたが、日本では弁護人を通さないと外部連絡ができないため、7/9と7/10のイベントを無断欠席することになった。その件に関してはNOAHフロントと話して解決済み。その後叔母が亡くなり、葬儀のためタイトルを返上し、帰国することになったとの主張。


7月19日

レスリング・オブザーバー誌のオーナーとして知られるライターDave Meltzerが自身の有料ポッドキャストで「事件はジムで起こったということだけはわかっている」と話す

Michael Elgin Involved In A Gym Incident

 

…まあ、「ある事件(an issue)」って何? としか言えないですよね。
結局そこをボカしている以上、NO PROBLEMということにはならないんですよ。
本人は「question(取り調べ)」とか書いてますけど、「警察に拘留され、72時間は弁護人を通さないと外部連絡できない」という状況は日本語では「逮捕」であり、英語では立派に「arrested」です。
ちなみに外国人でも国選弁護人は指定できますし、それで外部連絡を取ることは可能だったのですが、多分警察のそういった説明がわからなかったのだと思います。その辺外国人にはわかりにくいとか、供述調書の様式が不親切とか色々あるみたいですね。でも外部連絡させないこと自体は、証拠隠滅を防ぐためなので普通だよ。
身寄りのない短期就労ビザで来日した外国人なのだから、警察の方で雇用主のNOAHに連絡を取るのでは? という気もしますが、原則的には企業に逮捕の連絡はしないようですし(大体一報が入った親族等から企業に連絡するケースが多いとのこと)、まあこの辺に関しては嘘はついてないと判断していいと思います。
逮捕にもいくつかパターンはありますけど、常識的に考えて、3か月弱前に来日した外国人ですから、逮捕状を発行して捜査を受けるようなタイプの逮捕ではないでしょう。
来日前からにらまれていたとか、国内で前科があるとかなら違うでしょうけど、そうなるとすんなり就労ビザが下りるとも思えないですし、拘留後すんなり釈放されるわけもないです。
なので恐らく現行犯逮捕。で、釈放されているということは、嫌疑不十分か、あるいは示談成立で不起訴だったのでしょう。現行犯であれば絶対に「何か」はしているわけですが、じゃあそれは何? という堂々巡りに。
プロテインパウダーは道場に行けばあるんだから盗むわけないだろと言われればそれはごもっとも。じゃあ何したんですか? 言えないんですか? それは何? 性暴力絡みじゃないよね?(そうだった場合、もう2度と立ち直れないよ)
彼の釈明に対して海外ファンが一斉にLiarと叫んだことに驚いた人も多いでしょうが、彼が今まで起こして来た数々の事件と無数の虚偽発言のせいで(事件を起こして、ほとぼりが冷めるころに必ずあれは嘘だ、言いがかりだと毎回言うんですよ)、みんな彼の言動には全く信が置けなくなってしまったということなんですよね。
そもそも彼は去年の逮捕時に自己弁護的に「精神的疾患がある」と言っていましたが、じゃあ頼むから治療してくれ以外の言葉はないですよ。
そしてNOAHも精神疾患のせいでDVに対する保護令違反を60回以上してしまったがオレは悪くない」みたいなことを言い張っている人を、わざわざ新規に雇い入れないで欲しいですね……(前回のエントリに戻る)。怖くない? そんな人が同僚として入ってきたら、普通の顔して付き合えなくないですか? 北宮くんはどう思ってたの?


あとジェフ・コブにはどこからどういうルートで、どんな情報が行ったんでしょうね。これもよくわからないままですが、まあエルガンとジェフではジェフを信用しますという人が極めて多いのも当たり前なんじゃないでしょうか。
信用は一度失うと、取り返すことは非常に難しいです。これは団体も同じ。

bodyslam.netの人があやふやなままニュースを流したというのは、その通りでしょう。
いや、プロテイン窃盗の可能性がゼロになった訳ではないですが、少なくとも釈放はされているようなので。それも嘘でまだ日本に拘留されていたら怖すぎますけど。
Exclusiveでソース明記無しのニュースを疑わなかったのは私の先入観のせいであり、その辺については大変申し訳なく思います。うかつでした。WrestlingINC.comとかの老舗だとソース付いてるものなんですよね。
とはいえ、少なくとも逮捕拘留は本当だったわけで、どこかで情報の取り違えや切り取りが発生したのかなと(好意的解釈をすれば)思います。
海外ではマジで嫌われているエルガンのやらかしニュースのバリューに引きずられて、新興ニュースサイトが情報の第三者確認を行わず見切り発車した……というのが実際のところかな(実際このサイトでは無かったレベルでバズってましたし)という感じですね。

ビザ関連の問題では? という推測もあったようですが、就労ビザ以外で就労をさせると雇用主も不法就労助長罪に問われるので、それは無いような……気がしますけど、絶対無いと言い切れるほどの信頼が無いのが今のサイバーファイト。
Cygamesを抱えているサイバーエージェントの法務部とかめちゃくちゃ強そうなのに、なんかその辺の相談とかしてなさそうですよね。サイバーエージェント本体に嫌われてないか? 大丈夫か?
就労ビザを申請する際、前科があると通りにくいというのは確かですし、そこで虚偽申告をすると国外退去もあり得ますが、一旦認可したのを差し止め直すとも思えないし。まあ虚偽申告自体は、エルガン本人がDVの事実を認めていない以上ありそうですけど……。

 

あるいはエルガンの主張を100%認めたところで、今度は団体の対応に疑問が残りますよ。
例えば、強めの口調が見た目の厳つさのせいで脅迫と受け取られて捕まった……とかはかなりありそうな線にも思えるのですけど、そういった類の誤認逮捕系だった場合や、また単純に忌引きで帰国する場合、王座返上までさせるものでしょうか……?
忌引きで返上させるというのは不人情の極みで、団体への心象もめちゃくちゃに悪いですよね……。所属選手でそういうことがあったとしたら、絶対に受け入れられないことですけど……。
まあ今のサイバーファイト体制下NOAHはコロナ感染で王座「剥奪」(しかも小川さん相手に)とかやる団体なので全くわからないのですけど、でもビザ申請が遅れて武道館大会欠場となったクリス・リッジウェイのJr.タッグ王座は別に返上にも何もなっていない訳で。
まあ事件とは直接の関係はありませんが、そもそも7.16までの来日契約とHPにも掲載していた選手に王座獲らせるのって、じゃあ武道館で絶対に負けるんだ? という話ですよね。カードの組み方で勝敗が読めてしまうというのはプロレスあるあるですけど、契約状況で勝敗が読めるのはさすがにちょっと……客をバカにしているというか。
こんな事件が起きなければ本来は契約延長してN-1も出てもらうつもりだったのではないのか、と思うのですが、どうなのでしょう。

法的なことを言えば、社員が逮捕されても企業は公式にそれを発表することは「特段の理由がない限り」しないのが一般的です。
しかしこれは普通の会社員ならそうだということであって、芸能人やアスリートが逮捕された場合、起訴不起訴に関わらず事務所や所属団体が経緯説明の会見などを開きますよね。
これは公人と、公人を扱う企業として、犯罪と関わった可能性を放置することは、例え些細な「可能性」であったとしても、社会的に許容されないからです。当たり前すぎますが。グレーなままでは、企業として犯罪を肯定するのかという話になりますから。

今回、犯罪が絡んでいるかもしれないことを放置したことによるNOAHというかサイバーファイトへの信頼の低下は本当に今までにないレベルですし、杉浦選手の反ワクチン陰謀論系ツイートの件や、武藤選手のセクハラ発言、性差別発言の件の時と比べても、より多くのファンががっかりしているように見受けられます。
結局、団体が説明会見をする以外にこの状態に白黒がつくことは無いですよね。ニュースサイトが何を書いても、ソースを書けない以上ファクトとは言えないですし、本人は虚言癖で信用がない上に、肝心なところをぼかしているので。
繰り返しになりますが、サイバーファイトがこの件に対して取りえる正解としては、今からでも(できれば契約を結んだ経緯から)説明するということ以外にはないと思います。

 

 

私見としては、前回長々と書いたことではありますが、去年逮捕されたばかりでその事件に対する反省も償いもしていない人物と、そもそも契約すべきではなかったと思っています。エルガンにとって日本は最後の別天地でした。海外の大きい団体で彼を雇うところはもう現れないでしょう。
なにゆえNOAHは性暴力、DV、ストーカーの常習犯で、明らかにメンタルヘルスに問題を抱えた人と新たに契約し、あまつさえ王座まで獲得させたのでしょうか。そして謎の問題を起こしてうやむやに帰国という顛末。
大の大人が「性暴力もDVも大したことではないから彼を雇おう」と判断してしまったことが非常に残念です。大したことだよ。エルガンのせいで人生がめちゃくちゃになった被害者が何人もいるんですよ。この辺のことに関しては、サイバーファイトには猛省を促したいです。というか、ここで反省しないとマジで破滅ですよ。海外にものを売る気ないのでしょうか?

 

他団体の最近のこういった動向というと、AEW所属となったジェフ・ハーディーがまたアルコール&ドラッグ状態での運転で逮捕されましたよね。
アティテュード時代から追って観てきた方からすると、またか……の3文字以外特に言うことはないのですが、今までのWWEやTNAの時と違ったのは、AEWが本人同意のもと治療を受けさせることをきちんと発表したことです。

何度も何度もこうしたことを繰り返してきたジェフなので、今更治るのだろうか……というのはさておき、自団体選手のこうした逮捕事例に対しては100%正解の対応だと思います。

あと、犯罪ではありませんが、問題の火消しということでいうと新日の飯伏選手の件もありましたね……。
本当にもう手遅れなくらい後手後手になってようやく会見をしたな、という印象ですし、会見自体も木谷の言葉選びに血の気が引くほど嫌な気分になりましたが、それでも会見で一応「手打ち」になったという形は作れたので、やらないで放っておくよりは何倍もマシだったのだと思います……(とはいえ、今後復帰できるのかできないのかも不明というのがやりきれないですし、もし復帰できたとしてどんな気持ちで新日のリングに立つ彼を観ればいいのでしょうか)。
火消しって本当に難しいなと思いますが、そもそも火をつけるなという話ですし、燃えやすいものを不用意に扱うのはやめておけという話でもあります(飯伏は他の誰より丁寧に扱うべきだし、取り扱いマニュアルとかを中澤マイケルさんに作ってもらうべきだったのでは……)。

時系列にも書いたように、エルガンの件にはDave Meltzerが少し言及してはいるのですが、あんまり深掘りする気はなさそうですし、多分グレーなまま終わるんだと思います。NOAHもだんまりでしょう。で、忘れた頃に誰か外国人選手がネタばらしするんじゃないですかね。その日までNOAHが残っていることを祈ります。武藤引退したらサイバーエージェントにポイされそうじゃない? 大丈夫? 上手くやって?

 

 

またプロレス不祥事記録を7000字以上書いてしまって大変やな感じです。
前回のエントリ、結構色んなところで読んで頂けたようで、ブログもTwitterのアカウントも教えていない現場友達からも反応があってびっくりしました。
でも字が多すぎて半分くらいしか読んでなかったとのこと。申し訳ないです。やっぱ1000文字以内で刈り込んでまとめるべきなんだろうな~。しょうもない修飾語とか全部削って行こう! 実際前回も今回も「性犯罪者雇うな」の7文字でイナフなんですが、前回は元婚約者さんの話が怖すぎてつい使命感で全訳してしまいました。

今回もこんなクソつまんねえクソみたいなクソ話を打鍵したい訳もなく、本来は『ピースメイカー』に胸を打たれて長めの感想を書きかけていたところでした。推しがいる団体で不祥事さえ起きなければ……。せめて推しよ、泥中の蓮であってくれと祈るばかりです。
ので、次の更新は『ピースメイカー』の感想です。副読本的なものを読んでいるので、それを読み終わったら仕上げます。

エルガン選手参戦への抗議文

ノア4.30両国大会への、マイケル・エルガン選手参戦に対し、抗議と今後の契約継続中止を求めてクソみたいな長文問い合わせを書きましたので、以下にコピペしておきます。これまでの感じだと、まあ問い合わせに対して返事が来ることは100%無いのですが、とにかく抗議はしましたという話です。

 

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参戦発表時に、海外を中心に大きな拒絶反応が起きた事からすでに問題として把握されているとは思いますが、改めてエルガン選手の参戦がどのように問題であるか、二点、指摘させて頂きます。

①反省も償いもしていない犯罪者を公の場に出す事は、犯罪の肯定にあたります。
特にエルガン選手が犯したDVや性暴力犯罪は、犯罪者が公の場に出る事で被害者及び同様の経験がある視聴者にフラッシュバックを引き起こすという問題があるため、多くのメディアが最も慎重な扱いを取る事例の一つです。
WWEは2年前、Speakingoutムーブメントによって多くの所属スターが性暴力の告発を受けた際、調査を行い、ゼロトレランス方式(絶対的非寛容)で厳しく対処するという声明を出し、実際に数人の選手が謹慎・解雇処分となりました。ImpactやAEW、ROHなどの団体も同様の方式で処断を行うとしましたが、これら海外団体がこのゼロトレランスの対象としたのは家庭内暴力児童虐待、性的暴行を含む事項についてです。これは未成年者をも顧客対象とする会社においては当然の事であり、なんら疑問の余地はありません。
エルガン選手は、Speakingoutムーブメントの際、猥褻写真の送り付けを告発された事でImpactを解雇処分となりました。当然Impact側も調査を行った上で写真という歴とした証拠を元に決断したのです(調査の上、特に対応を取る必要がないと判断された関係者も、当然おります)。
ですが、エルガン選手は今年3月、この件での解雇を不服とし、Impactを相手に提訴を行いました。
これが自らが犯した罪に向き合い、反省した人間のする事でしょうか?
彼や彼の弁護士に理由を訊けば、契約が残っていた等の言い分を展開するかもしれませんが、彼ら以外のほぼ全ての海外の団体、関係者、ファンは、罪について軽く考えているからこのような提訴を行っているのだと見做しています。
彼には2017年に自らが運営していたGlory Proで起きた暴行事件の隠蔽と被害者への中傷から始まり、その後も反省することなく性暴力関連の事件を起こしては嘘を重ねたという前科があり、海外の団体、関係者、ファンから一切の信頼を失っています。
20年のImpact解雇以降、彼ほどの知名度と実績がありながら、どこの団体も彼に敷居を跨がせなかった理由は明白です。彼は犯罪者であるだけでなく、それを一切反省することなく、嘘をつき続けては信頼を裏切るからです。
このような選手が、プロレスリング・ノアの崇高なリングに上がることを非常に残念に思います。
日本のファンは彼の犯罪についてよく知らないから、という判断であるかもしれませんが、私のようによく知っているファンもいますし、両国大会も英語実況をつけて海外配信を行うのであれば、何の意味もありません。
繰り返しになりますが、反省も償いもしていない犯罪者を公の場に出す事は、犯罪の肯定にあたります。
今回、軽々にこのような判断を行ってしまった事に対し、どうか抜本的な見直しをして下さるようお願い致します。

また、解雇処分を行ったことで彼から提訴されているImpact側から見て、今回の参戦への心証はいかばかりでしょうか? Impactというこれまで様々な局面で提携を行ってきた団体、何より今もノアの魂を背負い戦っているエディ・エドワーズへの背信行為とは取られないでしょうか。
今回のこの選択が、これからプロレスリング・ノアが計画しているであろう海外展開において、有利に働くことは絶対にありません。むしろ長く禍根を残し、今まで言語の壁を越えて応援してくれていたファンの失望と離脱を招くのみです。すでに海外ファンが大きな失望を訴えていることは認識されているとは思いますが、今この“うるさいファン”を切り捨てたところで、犯罪者を平然と使う団体だという周知がなされた今、汚名返上はすでに厳しい段階に入っていると考えるべきです。
大会まで2週間を切った今、彼との契約を白紙に戻すのは難しいかもしれませんが、せめて今後の継続だけはなさいませんよう、強く訴えるものです。


②スタッフ、選手を保護する観点から見ても、エルガン選手の参戦は誤った判断です。
エルガン選手は、2021年7月に元許婚者に対する度重なるDVにより下された保護令への違反でベルヴィル警察に逮捕されました。
その際、彼によるこうした事件の再発を防ぐため、元許婚者が事件の概要を明らかにしていますが、エルガン選手の行った事はただの性的放埓の範疇にとどまるものではなく、常軌を逸した虐待行為です。これは元許婚者一人の訴えだけではなく、彼の元妻を含む数人の被害者が同様の事を訴え、裁判によって保護令が下されるに至ったものです。彼や彼の弁護士に状況を糺せば、自分は法廷に出席しなかったから無効だというような主張をするのかもしれませんが、あまりに多くの虐待証拠が彼の罪状を決定づけてるため、裁判所は二度にわたり保護令を下したのです。
元許婚者により、裁判所に提出された保護令依願の書類には以下の内容が記されていました。

「彼と交際して以来、私は彼から性的、精神的、感情的、そして言葉による虐待を受けてきました。虐待の内容は以下の通りです。
- 性行為を拒否すると罰を与える
- 人前で口汚くののしる
- プライベートでの暴言
- 友人や家族から隔離される
- 私の携帯電話やコンピューターを監視し、私が彼の指示に従っているか確認を行う(過剰なコントロール
- 性的な事柄についての管理を行う
- 拒否した性行為の強要
- 交際中に男女のセックスワーカーを見せることで、私のセクシャル・ヘルスを脅かす
- 私を侮辱し、恥をかかせる
- 恫喝
最近、彼がずっと、私のかつての知り合いであるふりをして、別のアドレスから私たちの関係について意見するかのようなメールを私に送りつけ、その中で私を罵っていたことが判明しました。これは彼が今まで使ってきた、私を支配するため戦略戦術と同じく、私を壊し、操るための彼なりの手だったのだと思います」

上記の依願を受けた裁判所が保護令を出したにも関わらず、エルガン選手は60回以上の保護令違反を犯し、逮捕に至ったのです。
エルガン選手がYoutubeにあげ、すぐに「いじめやハラスメントに違反する」としてYoutube公式から削除されたビデオによれば、彼は「逮捕されていない」と主張していたようですが、WrestlingNews.coがベルヴィル警察署から逮捕状のコピーを入手しています。彼は自分の問題が公になるたび、少し時間をおいてから嘘をつき、問題をあやふやにさせようとし続けてきました。
またこの元許婚者によれば、彼がターゲットにするのは女性だけではないということです。
元許婚者は、女性だけでなく、彼が今後関わる全ての男女に対して警告すべく、問題を公にしたとしています。
今回、御社がこのような告発の経緯をきっちりわかった上で、彼の参戦を容認したのかどうか、ただのファンにはわかりかねるところですが、何らかの問題を抱えていることぐらいはご存知だったと思います。
再度書きますが、彼が執着と虐待のターゲットにするのは、女性だけではありません。
反省を見せていない犯罪者に関わるということは、スタッフ、関係者、選手全員に不必要なリスクを負わせるということです。社員を、選手を守るという観点があれば、絶対に行うべきことではありません。
また今回同じく両国に参戦する外国人選手についても、御社が保護すべき対象であるはずです。彼らの中には、「エルガン選手とは住んでいる国が違うから、帰国すれば大丈夫」という訳にはいかない選手もいます。
それに、このような問題を抱えた犯罪者と一緒に招聘される事に対し、疑問をひとつも覚えずにいられるとは思えません。悪く取れば侮辱にも値するでしょう。
それは現在の所属選手に対しても同様です。彼のように問題を起こすことなく、全身全霊をリングに捧げて戦う選手に、このような犯罪を犯した上に反省もしていない選手を鳴り物入りで呼ぶのは、彼らの努力に対してあまりに侮辱的です。


倫理的にも、今後の海外展開的にも、選手関係者の安全という観点でも、エルガン選手の参戦には、何一つ良いことがありません。
今回彼の招聘に使われた金銭と労力に値する実力ある外国人選手は他にいくらでもいますし、そうでなくとも若手の育成、所属への還元として使うべきものであったと思います。

どうかエルガン選手の継続参戦だけはさせないでください。これ以上、ファンを失望させないで欲しいのです。
そして今後、問題を抱える選手の起用が案として出た場合は、丁寧な精査を行って下さい。
崇高なリングに相応しい運営判断を、なにとぞお願い致します。


上記の抗議に関して、以下の資料を参照致しました。
こちらもご確認ください。

●2017年のGlory Proで起きた事件についての日本語記事
https://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1436790

●Speakingoutでの告発に関する日本語記事
https://ch.nicovideo.jp/dropkick/blomaga/ar1918305

●2021年の保護令違反による逮捕時の記事(元許婚者の証言もこちらです)
https://wrestlingnews.co/other/aaron-frobel-michael-elgin-arrested-for-violating-a-protective-order-ex-fiance-alleges-sexual-mental-emotional-verbal-abuse/

●2007年頃に行った性暴力についての記事
https://www.mandatory.com/wrestlezone/news/1213805-michael-elgin-pee-story-is-false

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元許婚者の証言が掲載されているWrestlingNews.coの記事の翻訳もしましたので、参考までに併せてお読みください。

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2021年7月14日のWrestlingNews.coより

アーロン・フローベル(マイケル・エルガン)元婚約者が性的、精神的、感情的、言葉による虐待を主張

マイケル・エルガンのリングネームで知られるアーロン・フローベルは、2021年6月29日に逮捕され、「保護命令違反(Violation of Protective Order)※」で起訴されたとのこと。この事件は現在捜査中となっている。

※Protective Orderは家庭内暴力児童虐待、暴行、嫌がらせ、ストーカー行為、性的暴行などの疑いがある状況で裁判所が用いる命令。日本でいう接近禁止命令に近い。

2021年5月21日にフローベルの元婚約者が裁判所に出願した保護令に記された記録によれば、彼女はフローベルから「肉体的、精神的、言語的、感情的に虐待されていた」ため、自身の安全を守るため、4月21日時点で自宅を離れたと書かれている。

「以前にも何度か家を出る計画を立てたが、いつも恐怖ゆえ出来ずにいました。4月21日に家を出てから、彼から何百回もの電話、何百通ものメール、数多くのビデオ、そして自殺をするという脅迫を受けています。彼は私の友人や家族にも接触を図りました。それで私や連絡を受けた人達が彼の連絡先をブロックすると、彼は無料のメール・通話アプリを使って偽の番号を作り、電話やメールを送り続けています。自分の名で連絡してくるときもあれば、他の人になりすましたりすることもあります。私は彼に何度も連絡しないようお願いしています」

「彼と交際して以来、私は彼から性的、精神的、感情的、そして言葉による虐待を受けてきました。虐待の内容は以下の通りです。

- 性行為を拒否すると罰を与える
- 人前で口汚くののしる
- プライベートでの暴言
- 友人や家族から隔離される
- 私の携帯電話やコンピューターを監視し、私が彼の指示に従っているか確認を行う(過剰なコントロール
- 性的な事柄についての管理を行う
- 拒否した性行為の強要
- 交際中に男女のセックスワーカーを見せることで、私のセクシャル・ヘルス(※)を脅かす
※セクシャル・ヘルスはセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖において健康である権利)のうち、性に関して心身ともに健康であることを指すと思われるが、日本語で適切な訳語がない。
- 私を侮辱し、恥をかかせる
- 恫喝

最近、彼がずっと、私のかつての知り合いであるふりをして、別のアドレスから私たちの関係について意見するかのようなメールを私に送りつけ、その中で私を罵っていたことが判明しました。これは彼が今まで使ってきた、私を支配するため戦略戦術と同じく、私を壊し、操るための彼なりの手だったのだと思います」

フローベルの元婚約者に取材したところ、彼は60回以上保護命令に違反し、21年6月29日に逮捕される前には、彼が姿を消したとFacebookで書かれていた。彼女によれば、フローベルは自己弁護として精神的疾患があることを主張しているという。彼女は取材に対し、他の誰かにこのような事が起きないよう、自分の話を公表したとしている。

また彼女は、以下のように語った。

「私は全ての人のセクシュアリティを尊重していますが、その上で留意して頂きたいことは、彼が狙うのは女性だけではないということです。この警告は、女性に向けてのみではなく、彼と関わるすべての男女に向けての警告です」

「彼は私が去った後、何度も自殺をするという脅迫をしてきました。レイチェル(フローベルの元妻)も含めて、何人もの女性達が私に連絡を取り、同じ話をしています。彼は私達を支配するためのテクニックとして、自殺の示唆という手段を使い続けているのです」

WrestlingNews.coはフローベルに連絡を取ったが、彼からの返信は無かった。

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ここからは私の愚痴ですが、DV、性的虐待を行ったとはっきりわかっている人間の言動を追うのは本当に苦痛そのものです。

こんなことはしたくてしているわけではありません……。

でも、

・抗議する気力があって

・英語が翻訳できて

・抗議文としてまとめられる

っていうファンはそんなにいないんですよね。

代わりにやってくれる人を探すのも気の毒すぎるので、苦痛に耐えながらなんとかやりました。

今回、下の元許婚の証言を翻訳した後、最初に簡単な抗議文を団体ハッシュタグにつけた時、海外のノアファン数人から感謝の言葉をもらいました。

日本人のファンの中にも、きちんと問題視している人が居て良かったと。

海外のファンの多くは、最近始まった英語実況がつく前からのファンです。

原語の壁を越えて熱意を寄せ、応援してくれていたファンが、今回一様に失望と怒りを表明しています。私はすでに去年の色々(この記事に書きました→https://gazesalso.hateblo.jp/entry/2022/01/03/201635)で失望を通り越しているので、またかよ~~~って感じなのですが、海外ファンは新鮮に絶望感を味わっています……。見てて辛すぎます。
これを読まれた方で、自分もこんなことはおかしいと思うという方や海外ファンへの連帯を示したいと思った方は、このブログをリポストしたり、私のツイートをRTするだけでも構いませんので、抗議の意志を示してください。日本人ってみんな性犯罪スルーするのか~とか思われるのも辛いものですよ。
まあ、公式に抗議したりするとめんどくさいファンと思われますし、大本営発表しか信じないレベルの人から絡まれたりもするので、会場での特定が容易なプロレスファン、特に女性ファンが躊躇するのはわかるし、私も強く推奨はしません……。

私も実は発表時、諦念が強すぎてスルーしかけたのですが、少し調べたらさすがに看過できないヤバい人だったので抗議文を書きました。

なんかこういうことに頓着しない人が団体の舵取りをしてるの、今の時代と合ってなさすぎて本当に不安ですし、何より推しに……推しの優しくて高潔な生き方にそぐわなすぎて…………推しが猥褻写真送り付けおじさんと試合することになったらマジで嫌だ……勘弁してください……。

マジのマジで嫌だ……

BE A BETTER PERSON, BE KIND

※この記事には、差別的な発言の引用などがたくさん含まれます。
該当の件に思い当たりがあり、思い出して気分が悪くなってしまうかもしれない方、また民族差別や性差別、セクシャルハラスメントなどのネガティブな話に触れるのは辛い方も、閲覧にあたりご注意ください。

 

 

 

 

 

ひとつ前のエントリにも少し書いたのですが、2021年、私はほとんど生観戦に行きませんでした。
2月の武道館~12月の名古屋まで、まるっと10か月空きましたね。4月以降はそもそもコロナ禍、イチ推し潮﨑欠場という大きな理由があったのですが、3月はビッグマッチ含めすでにFC先行で購入していたチケットを全て払い戻してもらいました。それには3つ理由があったのですが、そのことをきちんと書いておこうと思います。本当はこの再検証が嫌で嫌でたまらなく、ストレス負荷で気持ち悪くなっているのですが、記録を残しておかないとTwitterは流れて行きますし、風化してしまうのは困りますので。

 

理由その1

2020年1月のノアのサイバーエージェント傘下(サイバーファイト部門)入り発表直後、突然上記のようなツイートをして以来、Twitterを止められていた杉浦選手が、約11か月の沈黙の後、2020年12月の杉浦軍興行を前にTwitterを再開されました。
……↑を読み返すと、よくこの人に完全にハンドリング渡して復活させたな……って感じですね……。実はこのちょっと前にも「泥舟」表現を使った発言はしていて*1、ただそれはツイ消ししてるんですよね。だからこの時の真意みたいなものは明確ではなく、恐らく毎年のように親会社が変わること、そしておそらくサイバーエージェント入りに関して相談というか一言かけるみたいなことが無かったのかな? という感じですが、正味わかりません。ここに関しては主題ではないので、紹介に留めます。マジでわからんし。

まあそんな不穏で(おそらく酒を飲むと)アンコントローラブルな状態になってしまう方が、また普通に試合に関すること以外にも、日常や飼い犬やご自分の考えなどもツイートするようになりました。はっきり申し上げますと、私は杉浦選手をフォローしていないので、以下の色々を知ったのは少し時間的ディレイがあります。面白い話や犬の写真とかは、フォロイーさんがRTしてくれるから別に直でフォローしなくていいやという感じだったんですよね。
で、今これを書くために杉浦選手のツイートを時系列で遡ったら、いくつか……というか私が問題にしようとしていたものが消えていたりしたので、残っている範囲と、あと証拠が無くて申し訳ないのですが記憶で起きたことを補足をさせて頂きます。

再開以降、最初にはっきりと不穏な空気が出て来たのはこのツイートでした。

これ、予備知識が無くてわからない方には何が「何で…」なのか全然わからないと思うのですが、COVID-19ワクチン開発にゲイツ氏が莫大な私財を投じたことから、アメリカのQアノン系を中心とした反ワクチン陰謀論者達が、mRNAワクチンにゲイツ氏がマイクロチップを混入させて人類をコントロールしようとしているという、今この文字列を打っているだけでその非科学的愚かさに頭が痛くなるようなデマを吹聴して回っていまして、ワクチン運用がアメリカ、イギリスで本格化するちょっと前くらいのこの頃、それが最高潮だったんですよね。
杉浦選手はもろにそのQアノン系陰謀論を信じてしまっていたわけです。

そして1週間後には、↑のように「コロナはただの風邪。ワクチンはMicrosoftの陰謀、感染者数云々は医者の金儲け」という反ワクチン陰謀論者の考え方に沿ったご意見を堂々と書き出すようになってしまわれておりました。
引用元アカウントが消えてしまっているのでもう証拠として提出はできませんが、「在日のせい」みたいなツイートも賛同RTしていました。あっという間のことだったので彼の変化に対して認識が追い付けていないファンも多かったと思いますが、この頃くらいからさすがに様子を見ていたファンや、直接サイバーファイトから仕事は受けていないプロレス/格闘技マスコミ関係者などからも諫める声、批判があがるようになったという感じだったと思います。

で、会社からもストップがかかったようで、1月27日のこの「本当のことなんか言えない」というツイートを境に、反ワクチン陰謀論系のツイートは止まりました*2
当時杉浦ファンの方に、「でもInstagramではまだやってるんですよ…」という話を聞いたのですが、2022年現在、当時運用されていたInstagramのアカウント自体が無くなっているようなので(多分)、もう今それを確かめることはできません。私もこの時もう重ねて見るのが嫌すぎて、Instagramまで確認できませんでした……。

これもう本当にしんどい話ですが、杉浦選手のTwitterフォロー欄を見ると、時系列に並んでいるので、Qアノン系Youtuber、極右政治家、いわゆるネット右翼的なアカウントがある時期からドッと増えているのがわかります。それ以前の柴犬のアカウントまとめてフォローしてるあたりとか、微笑ましくて泣けてしまいます。
で、仕上げに内海聡や、緊急事態宣言中に150人集めて自民党から除名処分になった池田としえ日野市議会員(現在Twitterアカウントも削除済み)などの有名反ワクチン系論者や、分科会の尾身会長を嘲笑するだけのネタアカウントとかをたくさんフォローするようになり……という、ある意味、陰謀論オルグされていく流れがよくわかるフォロー欄です。
結局ワクチンも接種されたのでしょうか。コンタクトスポーツの人が健康上の理由でなく接種拒否というのは、自分だけでなく団体そのものに大きなリスクを負わせる判断と思いますが、一体どうなったのかはわかりません。私は推しと試合をする人が感染症対策をしていないと知って恐慌状態に陥りましたが、他のファンは平気だったのでしょうか……。
私は現代的市民社会日本国憲法の下に生きている人間として、内心の自由は絶対と考えておりますので、別にワクチンで5Gに接続されると思っている陰謀論者だろうが、排外主義で男尊女卑の極右だろうが、それは心の中で思っているだけならお好きにどうぞと言うことはできます。でも、陰謀論に託けて他人を攻撃したら、それは同じく現代的市民社会日本国憲法の下に生きている人間として、一発アウトです。特に公人は。
杉浦選手のフォロワーは現在2.5万人。2.5万人に陰謀論と差別を喧伝したら、所属会社を明記している社会人として、今度は会社の責任が問われて来る話です。
だって、普通の会社でそんなことがあったら、解雇か、少なくとも懲戒処分は絶対にありますよね? コンプライアンス研修をしている会社なら、その辺のことは厳禁事項として社員に申し渡していますよね?

サイバーエージェントってもしかしてコンプライアンスが無いのかな……と最初に不安に思ったのがこの件でした。

杉浦選手、思い返せば東日本大震災の時も、プロレスは何もできないというようなネガティブな発言をされていましたよね。きわめてナイーブな方なのだろうな……と思いますし、多くの陰謀論者がそうであるように、社会不安ゆえに極端な現実否定に近い思想に傾いてしまったのだろうと考えると、気持ちはわかります。なので、本音を言えばなんだか「かわいそう」な気がして、あまり強く責める気持ちにはなりません。ですが、それは私が攻撃を受けた当事者ではないという特権を持っているがゆえに、そう思えるだけなんです。外国籍を持ってこの国で生きてきて、プロレスを好きになったファンだったら? あるいは、感染者増加ゆえの医療逼迫で苦しむ中、好きなプロレスを観に行くこともできずに現場で働き続けた医療関係者だったら? それで感染症拡大はお前ら在日のせいだ、医療関係者は金儲けのために嘘をついているだけだと言われたら?
「不安だったんだ、仕方ないんだ」とは、とても思えないですよ。
というか、力道山先生が拓き、数々の外国籍、あるいは外国籍から帰化した経歴を持つ名選手が彩ってきた歴史を持つプロレス業界に身を置きながら、民族差別を平然と行うというのは、マジでどういうことなのでしょうか……。
チャンネル桜などの極右排外活動家の配信にプロレスラーが結構出演しているのも含め、改めて業界が見直し、見つめるべき問題だと思います。
佐山聡が「オカマは死ねばいい」というような発言をしているのをGスピリッツが平然と載せていたのが2006年頃ですか。マスコミもあの頃から何も変わっていないでは済まされません。
今後、日本は恐ろしい勢いで少子化になります。国内だけで売り上げを立てるのではなく、海外へのPPV配信料を当て込むのは、今後の団体運営、コンテンツ制作の上で必須のはず。実際今、どこの団体も海外向けの配信案内をしていますよね?
海外展開に及んで、民族差別、排外主義を明確な形で残すリスクというのは、もうくどくど説明する必要はないと思います。欧米はコンプライアンスの概念がしっかりしているからというのもありますが、海外っていうのは英語圏だけじゃないんだよ、とか、そもそも英語圏に住むアジア系もいっぱいいるんだよ、とかね。
サイバーエージェント…というかサイバーファイトは、この件に関して、中で手を回して対外的には何も説明も謝罪もしないという方策を取りました。はっきり言って禍根を残すやり方です。ストップかけただけなので、上述のようにツイートもフォロー欄も引用・参照ができ、証拠が残りまくっているのを見ると、問題の本質を認識できていないように感じます。
例えこの先国内でしか商売しないとしても、医療関係者へのdisが残ってるのとか、思想の左右を問わず、良心を問われるでしょうに……。
止めて、その上で形式的なものとしてでも一言謝罪を入れればよかったと思います。そうしたら「一段落」になったのに。

 

理由その2

……………これ、なんか説明要りますか?
ヨシの嬉しそうなツイートを引用しちゃって申し訳ないんですけど、ヨシも海外で何を学んできたのでしょうか。まあぐじゃぐじゃな頃のWWEの最後の尻尾みたいな時期だったのでコンプライアンスも何もなかったのかな。

簡単に言うとセクシャルハラスメントであり、厳密に言うと言葉の性暴力です。

本当に気持ちが悪くて、武藤がここに来て金村キンタロー*3や前髪の人の次くらいに顔を見たくない選手にランクインしてしまいました。こんなに業界に推されているのに。
この後書く、3つ目の理由も武藤なんですが、3つの理由の中で個人的に一番尾を引き、一番受け容れたり許す気持ちにもなれず、本当に心底、かつ生理的に気持ち悪くて完全に無理なのがこれです。

女性の評価基準を「子宮」という肉体のパーツ、内性器のみに限定するこの発言は、どういう言い訳があろうとも、本当にごくごく単純な性的物象化(sexual objectification)という女性差別表現です。マジでこれは何の言い訳もできないですよ。女性は観戦するにあたって、試合の良し悪しなんかわからない、「頭」では観ていない、ただのバカ雌でしかないという認識あればこそ、こんなことを平気で言うんですよね。ジジイも勃起させたい的なことを言ってるなら、まあそういう性しか価値基準がない世界観なんだな…(ドン引き)で終了しますが、女性の子宮限定なので。
「20歳」というギリギリ成人年齢の女性の子宮なのも、完全にエイジズム(年齢差別)です。江戸時代の艶笑落語とかだと、こういう時は「死にかけの婆さんも化粧を始めるような」とか老人に矛先が向くもので、まあそれもエイジズムですが、しかし先日まで子供だった存在を性的に狙うより1000倍マシですね。女は若ければ若いほど良いという世界観は、ネットの普及と共に日本社会でマジのマジで一般化してしまいました。要するに無垢な子供を犯したいという気持ち、まあさっきも書いたように内心だけならどうぞご自由にですが、表立って大声で言うなよ。週プロもそれを見出しにするな。
こういうことを言うと、年寄りのひがみとか思う男性もいるでしょうが、人間誰でも一度は20歳だったんだよ。20歳の頃の自分が60近い男に性的に見られる恐怖で震えあがってるのを、今の自分が代弁しているだけです。
そもそも、女性=子宮という性への認識自体がもうおかしいんですよ。例えば私の母は病気で子宮を全摘出していますが、母は今も女性です。若くして同じ病気で同じ手術をしている「20歳」もいるでしょう。その人達はじゃあ一体なんなんですか? 彼が楽しませたい対象ではないんですか? 「病気の人達以外で」という趣旨の発言なら、もう完全なる差別ですよね。エイブリズム(健常主義)です。
子宮がない女性は普通に、その辺にいます。
トランスジェンダー女性だってそうです。トランス何それ、というならそれはトランスフォビア。
こんなに一言で差別主義を重ねがけできる人あんまりいないですよ。すごい数え役満ですね(呆れています)。

ついでに個人的なことを書きますと、私はアセクシャルです。
他人に対して性的欲求を持たず、他人から性的欲求を持たれるのも無理という性的指向です。そういう人間が、性的欲求のみの価値基準を押し付けてくる人に対してどれだけおぞましい気分になるか、アロセクシャルの皆様も想像だけなら少しはして頂けるかと思います。
そしてこの発言は、武道館の対潮﨑戦を前にしたインタビューだったことも最悪で、対戦相手である潮﨑のファンはそういう価値基準で観てるという前提があるように聞こえるんですよね。「おれの方まだまだヤれるぞ」というね。そういう意味でマジで私はこのセクハラ発言の被害者ど真ん中なんですよ。
セクハラしてきた人間の顔を観に、わざわざ大金払えってか?

しかしながらこの件も、はっきり言うと会社(と週プロ)の責任です。
当たり前ですが雑誌の取材は選手が単独で受けるものではなく、通常スタッフがついていて、ある程度チェックを入れます。例えば今後の予定とか、守秘義務がある事項についてペロっと喋っちゃったりすることもありますからね。ノーチェックならもう最悪です。
だからこういうことを武藤が言った時点で、スタッフが「今のはカットで」とお願いすればよかったんです。武藤はともかく、スタッフはコンプライアンス研修受けてますよね? 受けてないのかな? サイバーエージェントにはコンプライアンス研修がないのかな?(2回目)
選手を守る、という観点で考えても、スタッフがある程度そういったリードを取れない状態は非常にまずいと思います。
武藤ファンの友人曰く(なんと、私には武藤ファンの友人がいます)、彼は20年前からこんな感じで、もう直すのは無理だということでした。私もそう思いますし、正味こんな感じの老齢男性は世間にいくらでも、無限に佃煮を作れるほどいます。ありふれて珍しくもなんともない、クソセクハラクソジジイです。要するに、スーパースター武藤敬司がこんな汚名を今更改めて頂戴するハメになったのは、スタッフがご機嫌伺いしかできないからですよ。
週プロ側、ベースボールマガジン社コンプライアンス研修してないんですかね?
国内蛸壺メディアすぎて今更やる理由ない、センセーショナルな見出しで売り上げを上げたいという判断なのかもしれませんが、現代のメディアとして普通にまずいですよ。
外配信が始まったことによって、海外のファンからも記事への注目度は上がっています。翻訳かけたら一瞬で「終了」みたいなの、出していい理由あります?
もしかして日本のスポーツメディア自体終わってるのかな?

 

理由その3

number.bunshun.jp

これももうあんまり説明の必要はないと思いますが、このNumberの橋本宗洋氏の記事に最後にまとめられていることそのままです。
東スポの元記事はこちら。

www.tokyo-sports.co.jp

この発言が出た時、なんかもう理由その2の答え合わせのように感じました。
これが出るまで、千歩譲って時代遅れの茶目っ気表現と捉えようと努力していたのですが(マジで)、この発言で「本当の本当に女性差別者だからあんなことを言ったんだ…」というのが確定事項として覆せなくなってしまって、ちょっともう……限界に来ました。
橋本宗洋氏が先ほどの記事を出してすぐ、ノア武田取締役との会談を持ち、サイバーファイト全団体の現場取材から外れることになった*4のが本当に最後のとどめだったかもしれません。
橋本氏の記事、前半部分を読めばわかるように、批判がメインではないんですよ。あれはオマケです。きちんと取材した上で、試合の意義を再確認し、未来の展望を示して団体をアゲて行こうというのがよくわかる記事だと思います。最後の批判は、そのためのひとつの問題提起ですよね。だからまあ、当たり前ですけどこの後も関わり続けようという気持ちは、執筆時点ではあったと思います。というか橋本氏のノアがらみの記事いつも読んでいましたけど、選手の背負っている来歴を洗いだし、取材や質問の角度も鋭く、点を線できちんと結んで大きな絵を見せられる良い記事ばかりでしたよ。

それを呼び出して、決裂に至るというのは……。

団体は完全に「選手を守る」手段を履き違えています。

守護りたいなら、東スポ相手にこんなこと言い出した瞬間に「カットで」って言えばよかったんですよ。スタッフはコンプライアンス研修受けているでしょう。サイバーエージェントにはコンプライアンス研修がないのかな?(3回目)
ないのかもしれませんね。橋本氏の記事の最後にもあるように、この東スポの記事を公式アカウントでツイートして、橋本氏が「公式でこれはまずいですよ」とツイートしたら該当ツイートを取り消して、そのまま知らんぷりでしたからね。
この件も、会社はツイ消しと記者解雇以外何もしませんでした。最大の対象であるはずの客、ことに一番愚弄した相手である女性客に対して、何のアクションも起こしませんでした。
それって・・・"わきまえない女性客"はいらないってコト・・・!? と思ったので、私は次の日くらいにFCに電話して、既にFC先行で購入していた3万9千円分を払い戻してもらいました。約よんまんて。いいお客さんですね私(目が悪いので遠い席は辛いのです)。
この時、FCの電話を受けてくれたのは女性社員さんでした。
そう、ノアの内部には女性社員もいます。専属カメラマンも女性です。通訳も女性です。ある程度通っているファンならみんな知ってるよね。名前もわかるよね。
そういった団体のために働き、発展のため尽力している女性社員はみんな"わきまえ"させられていらっしゃるということなのでしょうか? 絶対に意見を言わない、意見することを許されない立場で仕事をしていると?
サイバーファイトの女性社員は、男性社員より一段下で控えているのが普通なんですか?
東京女子の選手もそんな感じなの?

……サイバーエージェントにはコンプライアンス研修がないのかな?(4回目)

 

コンプライアンス研修、してください。

選手、スタッフ、関連マスコミ、合同でしてください。

サイバー系列だけでなく、他のすべての団体もやってください。

ていうか全スポーツでやってください。

こんなクッソくだらねえ、一般社会人として、一般企業として当たり前のことも守れずに、客から金をとろうとするな!

最低限の常識だろ!

 

あまりに辛い。

 

というような経緯を経て

12.5ノア名古屋国際会議場大会で潮﨑が復帰すると聞き、私はチケット購入を一瞬迷いました。当たり前ですよね。上で書いた3つの理由による心の重さは、10か月経過してもどこかに行くことはなく、私のプロレスファンとしての精神の真ん中に依然として鎮座していました。
でも、あれから春も夏も秋もずっと辛くてずっと悲しくて、体調もガタガタだった私が、復帰のマイクを聴いた瞬間、それはもう宙に浮くほど嬉しかったんですよ。
鬱が治った! という感じでした。自分でびっくりした。
だから、長いこと応援してきた潮﨑のために……という気持ちで名古屋と後楽園ホールのチケットを取りました。武道館はワンチャン…と思って一応買ってあったのでマジで愚か者すぎるのですが、オタクのそういう愚かさに付け込まないで欲しい。付け込まれてしまうから。

でもいざ名古屋に行くとなると、すごくナーバスになって、辛くなってきました。
私、上記の3つの理由の時、Twitterアカウントでも表立ってタグつけて批判しましたし、FCに電話して返金要求ついでにしっかり抗議入れましたし、ていうかそもそもノアのFC入ったの鈴木軍撤退後すぐだから6年くらい……? つまりアカウントとFCナンバーと顔と本名が一致してる人がいっぱいいる空間に行くんですよ。嫌すぎ。ていうか、向こうが嫌だろうなって。スタッフも、私に挨拶してくれたりしていたおまいつ客達も。

そもそも、こんなに重い嫌な気持ちを引きずったまま、楽しく、いやせめてフラットな気持ちに戻して観戦できるのかと不安でした。

……まあでも、観戦できたんですよね。
名古屋の第一試合に征矢選手がいたのも良かったのかもしれません。全日本、W-1の時のワイルドキャラを封印し、ひたむきに己の本来の才能であるフィジカルの強さにかけて戦う彼は、今私の中ですごく「頑張ってる人」として称揚されている選手です。

名古屋大会が終わる頃には、リングの中は私が好きだった、特に負い目なく観ていた時と変わらないな~と思えるようになりました。まあ武藤が出ている時は目の焦点を合わせないように努力しましたが……(今も)。

あとやっぱり、プロレスって生で観ると本当に面白いですよね……。
そりゃもともとFC先行で3万9千円分買ってた人間の言うことでしかないですけど……。

 

じゃあどうするのか

急に少し話が関係ないところに行くのですが、先日AEWダイナマイトの2021.12.23放送回の、ナイア・ローズ対ルビー・ソーホーの試合で、こんなことがありました。
ナイアはトランス女性の選手なのですが、最前の客がそのことを揶揄したサインボードを掲げていたのです。

こんなの。

これはトランス女性に対して本当に悪質なミスジェンダリングで、到底許されることではありません。当然この画面キャプチャをきっかけにTwitterでAEWを視聴しているファンから批判が殺到し、この悪質サインボードガイはそのあとスティングの長い入場で画面が切り替わったあたりでいなくなっていました。ナイアの試合とスティングの試合の間の試合では普通に座っていたので、恐らくスタッフに連れ出されたのだと思われます。
この時、この件に関して声をあげたファンのほとんどが、この差別的行為を批判し、AEWの対処を求めていたというのが印象的でした。日本でもし同じことがあった場合、「ネタなんだからそんなに怒ることないだろ」って冷笑してくるファン多そうだな~と思います。向こうはほとんど怒ってた。

で、特に印象に残ったのは、Be a better person、Be kind」という呼びかけをしていたファンが数人いたことです。

「こういう差別行為を面白半分でするのはダメだ、我々はより良い人間であろう、優しい人間であろうよ」

こういう時に、まず怒りよりもこうした呼びかけの言葉を紡げるのは、多分少し当事者性の低いファンだとは思うのですが、より良く、色んな人が快適な気持ちで楽しく応援できるファンダムの形成において、この優しさへの呼びかけがどれだけ大きな力を持つことか。当事者性は低くとも、マイノリティに味方し、差別に反対する「アライ」ができることの中でも、最善のことのひとつだと思います。

なんというか、もうこれしかないんじゃないかと思いました。
私は……日本のプロレスの中で一番好きな選手が、プロレスリング・ノアの所属です。
彼にはこの団体で命を懸ける理由があり、実際に命を懸けています。
2013年以降、彼が団体を移っても応援してきた私は、今のその彼を応援したい。
一方で、その団体は私の心をズタズタにするような、社会的にマジでどうかしてるクソヤバ団体でもあります。リング上はともかく、ですよ。

悩んで、私の下した結論は以下の通りです。

 

・選手の応援は続ける

・団体を信用しない(団体グッズとか買わないし、懇親系イベントには行かない)

・この件をブログにしっかり書き記し、検索で辿り着いた世の人に「プロレスって2021年もまだこんな感じなんだ」ということを知って頂く

・完全にもう大丈夫と思えるまで、プロレスを観たことない人を誘わない

・似たようなことがあったらまた正当な手段を持って公開批判し、場合によってはまた払い戻しをする

 

逆アンバサダーじゃん。

プロレスリング・ノア非公式逆アンバサダーに就任しました。
私これまで何度かプロレス観たことない友達を連れて行っていて、そのたび面白さを熱く語る熱心な隠れアンバサダーだったんですよね……。

あとこの件でキャンセルカルチャーについて調べたりしたんですが、もう日本と海外で状況が違いすぎて、キャンセルカルチャーのキャの字を出すのもおこがましいですよ。
行き過ぎたキャンセルなんか日本のどこでも起こってねーよ!!!!!
日本はまだ、正当な抗議に対して不実な謝罪がギリ行われるか行われないかくらいのレベルじゃないですか。「差別はよくない」という社会的コンセンサスもねえよ。前近代的~!!!!

真面目に言うと、こういった事件が起きた後、再び「もう大丈夫」って思えるには、もう一度事件が起きた時にきちんとした謝罪などの対処がされるか、もしくは当事者が「全く逆の善行を積む」しかないんですよね。
民族差別や女性差別に反対する言動を取るとか、そういうNPOをめちゃくちゃ支援するとか、募金するとか、やってくれれば一発なんですけど。
でもそういう機会ってまず訪れないので、この先もし何も起こらなかったとしても「絶対安全」という判断にはならない訳です。
だから私は、明日また何かあるかもしれない、明日がよくても明後日は、次のビッグマッチは、とずっとずっとずっとずっとずっとずっと永遠に怯え続けなくてはいけない訳です。
でもそれが「良くない」ジャンルを愛してしまった人間の、最低限強いられる緊張、負うべき苦しみなのだと思います。

 

まあとにかく、早くコンプライアンス研修してくださいね……。

 

余談

同じように、自分の好きなジャンルで起きた事件を丁寧に批判していたこちらのブログにものすごく共感を覚えましたので、リンクを貼っておきます。ジャンル全然違いますけど。

tegi.hatenablog.com

特に↓の「そのあとのこと」で書かれた、↑の批判を書いたあとでライブに行った時に感じられたという居た堪れない気持ちが、私も名古屋で思ったことと大体一緒で、なんかみんなそういう気持ちの動きがあるんだな……と、ジャンルは全然違うのですが、何かを本気で好きなファンとして、小さな慰めというか励ましのように感じました。

 

tegi.hatenablog.com

 

私たちは、文化を愛するのと同時に、ただの人間としてBe a better person、Be kind」でありたいのです。

そしてある文化のファンダムを構成する人間としても、良き人間、優しい人間でありたいのです。

今書いてて思いましたが、これ、カート・ヴォネガットの「神よ、願わくば私に、変えることのできない物事を受け入れる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とを授けたまえ」っぽい。
でもね、この世界における差別の撤廃は歴史的に、性差別も人種差別も、「変えることのできる物事を変える勇気」によってなされてきたものです。

Be a better person、Be kind!

*1:このツイートの引用先

*2:ジャン齋藤氏のこのツイートあたりでようやく会社に響き始めたという感じだったと認識しています。

*3:2008年、大日本プロレスの女性スタッフに対し、強制わいせつ事件を起こしている

*4:報告はこのツイート。辞めてくれだったのか辞めますだったのかは不明だが、呼び出したのは明らかに取締役側だろう

今日の全日本プロレス【12.22追記】

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12月16日、大変久しぶりに全日本プロレス後楽園ホール大会に行きましたので、雑感などを書いておこうと思います。タイトルの読みは「こんにち」の全日本プロレスです。

そもそも1月の杉浦貴反ワクチン陰謀論民族差別ツイートRT、武藤敬司週プロセクハラ記事、2月の武藤敬司性差別大肯定発言と、わたくしの日本プロレス界のイチ推しが在籍している団体で地獄みたいな出来事が連荘で起き、抗議の意をお伝えした上で既にFCで購入していた3月チケット分4万円↑分返金処理、そしたら3月にその私のイチ推し選手こと潮﨑豪長期欠場決定、そもそも夏場は1日5千人のCOVID-19感染者数を叩き出し、自宅待機死亡者の続出した悪夢の2021年、私は2月のノア武道館を最後に生観戦に行っておりませんでした。
潮﨑復帰にあたり、今月12.5名古屋から観戦復帰はしたのですが、この辺の心の整理に関する話も年末おいおい書いていこうと思います。
とりあえず、今は全日本プロレスの話を書くね。

 

12.16のチケットを買ったのは、11月半ばゼウス選手が年内で全日本プロレス退団、大阪プロレス社長就任決定とのことで、12.16が所属最終興行になるとの発表があったからでした。秋山準退団以降、全日本プロレスへの興味というのものは下がる一方で、一応配信の全日本プロレスTVには今も入っていますし、気になる試合があればそこだけ拾って観たりはしていたのですが、とにかく前半の試合の「いなたさ」が苦痛すぎて、5000円以上払ってフルで観戦するのは嫌だな……という気持ちになっていました。なんかさあ、「明るく楽しく激しく」を根本的に履き違えているでしょ。
今の全日本のカードや展開を差配している人(誰だかわかった上で伏せて書く意味ないんですけど)、本当にセンスが前世紀で止まってますよね。
そんなわけでまあ、あんまり気乗りはしていなかったのですが、(潮﨑に思い入れがある)ゼウスさんには(潮﨑ファンとして)思い入れがあるので、最後は見届けたいなとチケットを購入したところ、なんとその後追って野村直矢岩本煌史の二選手も退団を発表。3人まとめての合同卒業式みたいな興行になってしまいました。

脱線しますが、私が全日本プロレスを観始めたのは、2012年のことです。
そもそもプロレス自体を見始めたのが2009年で、その後、体系的に過去を遡って試合映像を観て資料を漁ったりしたので、知識面での蓄積はありますけど、当然現場の空気とかは知らないです。学生時代にアティテュード期の深夜放送WWEWWF)は観てましたけど、試合をちゃんと観ていたわけではないですし、格闘技面白いな~と思ったのはその後のPRIDEブームの頃ですね。ヒカルド・アローナを好きになって、彼が無差別級で二年連続優勝した頃のアブダビコンバットの映像とか探して観たりしてました。
その後特にプロレスに縁無く生きていたのですが、2008年ごろ、突然漫画の『キン肉マン』にハマりました。で、2009年に「キン肉マニア2009」という、プロレスラーがキャラクターのコスプレで試合をするイベントがありまして、当時親友と二人で観に行ったんですね。北の湖が目の前に座っていました(作中ちょっと出てくるんですよね)。で、まあ、プロレスを生で観て、こんなに面白いことがこの世にあったのか! というレベルで驚き、そこから急転直下でプロレスの世界に飛び込んで、今に至ります。キン肉マンのあとすぐ行ったのがWWE日本公演で、それでクリスチャンを観て一目惚れしたので(アティテュード期観ていたはずなので二目惚れですかね)、最初はずっとWWEアメリカンプロレスを過去も含めて追って深掘りしていき、次第に海外選手がゲスト招聘される日本の団体の興行にも行くようになった…という流れでした。私のオタク来歴とかどうでもいいとは思いますが、長文で書く機会も無いので書いておきます。
最初に行った日本の団体は、ノアです。一人で行きました。ノアなんですけど、あのー、多分団体史に残るクソ興行回だったんですよね。2010年の金本・タイガー組がメインに出たやつ、と言えばわかる人はわかると思いますが、客席が荒れ狂いすぎて、試合終了後も選手が宥めに残ったりしたやつです。死ね死ねぶっ殺せの野次大合唱がすごかったですよ。通路に立ってる客いっぱい居たし。日本のプロレスってゴミみたいな環境でやってるんだなって思いましたけど、あれは特殊な状況だったんですね。クソの鬼引きをしてしまいました。ちなみにその時の目当てはクリス・ヒーロー&クラウディオ・カスタニョーリ(現セザーロ)のKing Of the Ringでした。当時ROHのスター選手だったんですよね。CZWでハードコアなんかもやってて。とにかく最初がクソだったので、その後しばらく行きませんでした。次にノアに行ったのは2011年4月のGTL後楽園ホールですね。KORが震災すぐにも関わらず来てくれたので嬉しかったのです。その時は普通の良い空気だったので、めちゃくちゃ安心しましたよ。怖かったもん。これだったらとその後も海外選手目当てにぼちぼち行くようになりました。
とはいえとにかくこの頃は日本の選手に興味がなかったので、元WWEスターをよく呼んでいたSMASHを定期的に観に行くようにはなりましたが、ゲスト次第なので団体を追って観ているという感覚はあまりありませんでした。当時SMASHでMAZADA選手を観て、こんなに試合が上手い日本人選手がいるのか~と思って愚連隊興行とかも行くようになったり、基本的に日本のプロレスへの興味はインディー方面から広がって行った感じですね。ハードコアが観たくて大日本もかなり行ってたけど、きっかけが思い出せないな。友達に勧められたからだった気がします。

新日本プロレスには、レッスルキングダムにテリー・ファンクを、後楽園ホールにはアレックス・シェリーを観に行きました。シェリーの本格参戦は2012年頃ですけど、その前のスポット参戦の時が最初かな? TNAの名タッグ、モーターシティマシンガンズの正パートナーであるセービンが怪我で長期欠場したのをきっかけに彼と別れ、KUSHIDAにセービンと同じコスチュームを着せ、同じ技を使わせるシェリーの魔性の…何? 魔性のなんかっぷりに戦慄しました。こええよ。自分はMCMGは終わったんだ…って言いながらコスチューム売ったりしてたのによ。のちのちセービンも元気になり、最近になってモーターシティマシンガンズも復活したのはとてもとても嬉しかったけど、セービンの心は広いですね。2008年くらいの頃、TNAでシェリーの我儘に他のロスターが迷惑してるのにセービンが野放しにしすぎているのでむしろセービンに恨みが集まっているという謎のバックステージリークがありましたが、マジでなんだったんだろうな。メリーナの我儘にみんな迷惑してるのにモリソンが野放しにしてるから云々と完全に同じ構図なんですけど(これは2010年くらいのWWEの話)。彼氏扱いじゃん。
ただ変な話……というか今の私の指向から考えると当然かもしれませんが、新日本で観た他の試合のことは、ゲスト参戦していた丸藤のことしか覚えてないんですよね。上手いな~っていう。クリスチャンもMAZADAさんもそうなんですけど、この頃の私は上手いな~っていう評価点しかなかったっぽいですね。

で、いわゆるメジャー三団体で最後に行ったのが、全日本プロレスでした。
2012年のケビン・ナッシュがゲストで呼ばれた横浜文体ですね。一緒にキン肉マニアを観に行ってプロレスにハマり、この頃すっかりケビンファン(というかショーン・マイケルズのファンで、ショーンが一番好きな人がケビンだからケビンも大好きというファン)となった親友と一緒に行きました。目の前に座っていた諏訪魔ファンのご家族の観戦態度が最悪で、子供が振り回した物が親友の顔に当たったりしたのをよく覚えています。でもケビンが本当にかっこよくて、すごく高さのあるサイドウォークスラムをきちんとやってくれて、その後あんなにちゃんと動いてるの観たことないレベルだったので、気合入れてくれたんでしょうね。親友ともども、この時彼を呼んでくれた白石マネーには頭が上がらない気持ちがずっとあります。
まあそれはともかく、この日観た大和ヒロシ佐藤光留諏訪魔船木誠勝が本当に面白くて、プロレスに対する意識が一新されるような感覚を持ち、「こういう試合がずっと観たかったんだ」と思いました。初めて本当の意味で、日本のプロレスに興味を持ったんですね。それが私と全日本プロレスの関わり合いの始まりです。こんな試合がいつも観られるなら、通って観たいと思いました。今思えばなんて幸福な出会いなんだろう。SUSHIとBUSHIが出てきて、どっちがどういう何? と訝しく思ったのも覚えてますよ。

それで通い始めたら、2013年1月の大田区大会でバーニングの5人が参戦の挨拶に来まして、私はそれまで何回かノアで潮﨑を観ていたはずだったんですが、スーツでニコニコ笑っている彼を観て二目惚れしてしまい、これは本当に自分でもびっくりしました。ノアで笑ってるとこ観たことなかったからなのかなんなのか、全然わかりません。ノア時代、自分の試合が終わった後も廊下で他の試合見ている潮﨑を見かけて、真面目な人だな…と思った記憶だけはあるんですが。
それでもうあとはズルズルで現在に至ります。
潮﨑豪という選手のファンになってしまったので、彼を知るためにはノア、全日本プロレスのレガシーをきちんと知らねばならない、という向学心が沸いて(オタクだから)、やっぱり過去の試合を観たり資料を漁ったりするようになったので歴史を体系的に喋ることもできますが、私の2009年以前のできごとに関する知識は全て「勉強したもの」です。でも、そんなん全世界の歴史学者も一緒だろ。後追いは推定の確度を上げて行くしかないんだよという気持ちです。


長々と書きましたが、要するに2013年初頭からの全日本プロレスは、私が初めて意識的に、リアルタイムで団体の動向を追いかけて観ていた日本の団体で、その中でも潮﨑豪が在籍した2013-2015年の3年間には並々ならぬ思い入れがあるということです。

 

話を戻して以下12.16の各試合感想を書きますね。いつもいつも前置きが長いんだわ。

第1試合 土方隆司&SUSHIvs 植木嵩行&立花誠吾

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土方先生、いつ観てもそんなにコンディション変わらなくてすごいですね。
おすしさんはますますヘビー級としての貫禄がついていた。
土方先生以外みんな「一芸」の人なので仕方ないのですが、順番に一芸を出していく感じで散漫な試合だったな……。

第2試合 TAJIRI&大森北斗&土肥こうじ vs 芦野祥太郎佐藤光留&田村男児

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2021年のプロレス界を語る時、いくつかあげられるテーマのうちのひとつが「佐藤がなんかかわいそう」ではないだろうか。
DDTから譲り受け、佐藤が個人の趣味や希望、野心を叶える団体として実績を積み、評価も上げて来た興行「ハードヒット」。プロレスは格闘技であるというテーゼ、レスリング技術への本質回帰、「強さ」の追求、そしてそのうえでまたすべての格闘技を包括できるのが「プロレス」である、といったような思想のもと作られたであろう(あんまり真面目に追ってないのでそういう認識です)ハードヒットで採用されたルールのうちのひとつがUWFルールであった。今時UWFをやる! というハードヒットの売りは、同時に信念であり誇りに直結したものだった。
2021年、その「今時UWFをやる!」というコンセプト丸ごと頂きの団体が急に立ち上がり、きれいなポスターやグッズ、オシャレな雰囲気の興行でタコ殴りにしてくるとか絶対誰も予想だにしませんでしたよね。佐藤のTwitterでの宣伝なんか、本人が作ってる雑コラじゃん。ハードヒットもさすがにメインポスターはプロの仕事だろうが、趣味感が強すぎるので万人に開かれている感じは全くない。佐藤が着物着てたらなんなのっていう。身内感がすごいというか、すでに全日などで佐藤の試合を観て、佐藤を信頼している客しか来ねえし喜ばない環境ではあるものの、でもそれでもじりじりと評価と知名度を上げて頑張って来たんですよね。でもあくまでじりじりだったから、急に広告クオリティと物量をぶつけられたらさあ……。
有望で見栄えのいい若手もぶっこ抜かれ(HEAT-UPのだが)、コンセプトも頂かれ、怒れる佐藤と周辺関係者だが、何を言っても大体「アングル」として吸収処理されている現状は広報蟻地獄のようだ。対抗戦出てたらね、まあ、アングルかなって思われちゃうよね。でも対抗戦出る以外どうしろというのだろうか。マスコミ戦略でねじ伏せられている感がすごい。2021年、こんなことが起きるとはお釈迦様も青木篤志も思うまい。

ていうか、今時UWFスタイルを標榜する意味ってなんだろう。マジで。

GLEAT側としては田村潔司ありきのコンセプトなのだろうが、現在の田村潔司は別に試合をするわけではないので、田村潔司の本意、理念をリングで直接確かめることはできないのである。
ブランドコンセプト頂きとは言ったけど、UWFルールをやってるだけで、真実、心の底から「プロレスは格闘技であり、かつまたすべての格闘技を包括する上位概念となりえるのだ」的なことを信じているようにはあんまり見えないですよね(Uオタの田中稔、飯塚優の二人は掘り下げたらそういうことを思っているのかもしれないが)。
UWFルールに内包された「思想」が、ハードヒットの枠を超えて業界に広まって行ったのなら、それはそれで幸甚なのでは? と考えても良いと思うが、そういうことをやり続けて来た経験値の部分でどうしてもハードヒットより実力部分で落ちてしまうわけで……それを「これが現代のUWFスタイルを代表する団体だ」とかりにバーンと売るのはやっぱり……難しい気がしますけどね……。
そういう中身の歩調がいまいち揃っていないところを、パッケージの美しさや、対抗戦と称してハードヒットを取り込むことで補強するGLEATのやり方、なんていうか……悪意とか全然ないの、わかりますよ。でも、佐藤がなんかかわいそうだ。

私はハードヒットの興行を真面目に追ってませんし、別に味方でもないです。元性犯罪者とか呼んでた時は最悪だなと思いました(クインテットも)。犯罪者の更生後の社会的ケアみたいなことは別議論として重要とは思いますが、性犯罪者が表舞台に出ることで、今も市井に生きている被害者への二次加害になるとか、まああんまり興味ないし大したこともないと格闘技界の人は考えているんでしょうね。マジでよくないですよ。
GLEATも仏作って魂入れずでは困るけど、形から入っていつの間にか魂が宿る場合もあるでしょう、とは思ってます。
とはいえ、新日本のストロングスタイル対するアンチテーゼとして生まれ、総合格闘技の隆盛によってアウフヘーベンされていった、時代のあだ花としか言いようのないUWFを今やる理由とは? 正直あんまりピンと来ません。今のプロレス界自体が、過去行われたようなアンチテーゼを必要としているようにあまり思えないので……。

プロレスは格闘技だ! という思想それ自体は、新日本が異種格闘技路線からの暗黒期を経て急速にWWE化したあたりでは強いアンチテーゼになったと思いますが、完全に「そういうもの」として定着した今は、すでにそういう段階でもないような気がします。どうなんですかね? 現在の新日本を観ても、ストロングスタイル最強! みたいなことを思ってる客はごまんといるのは知ってますけど……なんかもうその辺のタイプを相手にアンチテーゼを張っても発展性が無いように思える。誰かが言っていくことが大切なのもわかりますけどね……しんどいけど……。
そうなると、ハードヒットのUWFルールがどうと言うより、そこに込めた戦闘的な思想自体が、今や理解されづらく、キャズムを超えて広がらなかった一因となっているのではないだろうか。GLEATはしかし、その戦闘姿勢を持たないことで容易にキャズムを超えるだろう。キャズムってもう死語か?

あるいは、現代のプロレス界が将来の発展のため本当に必要としているアンチテーゼはなんなのか?ということを突き詰めたとき、初めてこの話が枠を超えて広がって行くのかもしれませんね。

いやまあ、思想とかなくてUWFが好きなだけ、それだけでもいいとは思いますけどね……。でもそれを武器に戦ってきた人達からそれを取り上げて、飾りにされちゃあ、まあ揉めますわよね。この話、どう決着がつくのかマジでわかんねえ。来年なんとかなったりするのかな。
というかアレですよね、さっきSMASHとか書いたので思い出しましたけど、佐藤さん、SMASHの後継団体となったWNCで、華名さん(今や世界のASUKAである)への賃金未払い事件があった時、「この世界ではこういうことはよくある。夢を与えるために戦っているのに金でグダグダ言うのは器の小さいやつだ」的なTAJIRIさんの論調に同意してましたよね。自前の興行抱えた今はどう思ってらっしゃるんでしょうね。
ハードヒットに参戦してくれている選手に未払い、できますか?
絶対できねえだろ?
この辺はきっと考えを改められたことと思います(今も未払い上等だったらもう知らんし、かわいそうだと思うのも全部撤回します)。

そんな風に色々あってこじれまくってる佐藤だが、田村男児が北斗から直接勝利して本当に嬉しそうだった。さすがの私もいいことあってよかったねの気持ちだ。盟友青木篤志への思いを胸に、(概ね悪い方へと)変化し続ける全日ジュニアに居続ける佐藤にとって、田村の存在はかすかな希望だと思う。青木と共に育てたEvolutionの若手、岡田はすでに団体を去り、野村もまたこの日去って行く。田村はまだ居る。全日本で頑張ろうとしてくれている。いつも第2試合くらいで、テーマを見出しにくい6人タッグばかり組まれているのに。

コロナ禍において試合数が少なくなった全日本プロレスは……いや、そもそもコロナ前、現体制下となってから明確にその兆候があったが、ジュニアヘビー級不遇の方針を定めて邁進してきた。
去年ついにジュニアタッグバトルオブグローリー(ジュニアタッグのリーグ戦)が不開催となり、佐藤がハードヒット預かりでワンデイトーナメントを開催した時は、本当に辛くて会場で泣きじゃくってしまった。こんなことで客を泣かすな。

普段6人タッグばかり、試合でリングに出ている時間も5分未満な若手のジュニア選手達が、時間制限目いっぱい引き分けまでやって、大汗をかいて躍動していた。みんな、こういう試合がしたかったんだという強い強い思いが爆発しているのを感じた。
なかでもそれが顕著だったのが田村男児だ。田村は明らかに怒りを露わにしていた。普段はニコニコ、とぼけてどこか茫洋としてさえ見えるような雰囲気の彼が、怒りの神経電流で火花が散るのではないかというほど殺気立っていた。
「まともな試合」を渇望していたのだ。

このままの体制が続くなら、本当に田村がかわいそうだ。
去年、生え抜きの岡田が退団した理由は明白だ。まともな試合が与えられなかったからだ。あんなに(退団後青木と試合をするために出戻った)鈴木鼓太郎を批判していた彼が、全日本プロレスを辞めるという選択肢を選ぶなんて。
最初に書いておくが、私は基本的にプロレスにおける入/退団は労働問題だと理解している。私は労働者であり、企業ではない。それゆえ、労働問題において、労働者と企業では労働者の方に私は付く。賃金や労働環境の改善が無いのに、遺留要請されても困るでしょう。
残った選手たちをどうか大切にして欲しい。みんなそれぞれに耐えている。今回、メインイベント後の青柳優馬によって名指し批判された背広組には、少しでも良い環境、彼らが快適に試合できる環境を用意できるよう努力する義務がある。それがあんた達の仕事の本分だ。

 

第3試合 ジェイク・リー羆嵐児玉裕輔 vs 渕正信&斉藤ジュン&斉藤レイ

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渕さんに何度心を救ってもらっただろう。
分裂、大量離脱、団体の屋台骨を揺るがす出来事が起きた時も、渕さんはいつも変わらずリングに居てくれた。
馬場さんと鶴田さんを誰よりも愛し、生涯全日本を貫いている渕さんだが、去って行った者たちに対しても常に一定以上の理解を示し、それぞれの道を選んだことを応援してくれているということが何よりありがたい。優しいという以上に、ある種運命論者的な思考を感じるが、これまでの経歴を思えばそれはそうなるだろう。
渕さんの心を思えば、退団者に石を投げんとするファンは無粋である。とりあえずお前ら全員渕さんの名著『我が愛しの20世紀全日本プロレス史』を読め。Kindleですぐ買える。

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第4試合  世界ジュニアヘビー級選手権試合

【第58代王者】イザナギ vs 【挑戦者】スペル・クレイジー

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誰だ、このカードをタイトルマッチにしたやつ。今時クレイジーに世界ジュニア持たせようと思ったやつ。一人しかいないのはわかっているが、あえてマジでどこの誰なんだと言わせて欲しい。ECWオリジナル、なんかいつもバルコニーから飛んでるハードコアなハイフライヤー、という彼のブランドパワー的なものは現在の全日本プロレスの客にどこまで通用したのだろうか。ゼロ年代なら響きまくっただろうが、さすがに2021年の今日はあんまり通じてなかったように見えましたけど。
ECWオリジナルであるということは、言ってしまえばすなわち20年前が全盛期だったということだ。技は出せる。ムーンサルトも場外ケプラーダもできる。この年齢このキャリアでそれは立派だ。でも、足が遅いよ~~。走れてないよ~~~。さすがに無理があるよ~~~~。
プロレスは、決められた時間内ずっと全力の短距離走をし続けるスポーツでもある。走れず、スピードを乗せた踏み込みができなくなった時、グラウンド以外の技の威力はほぼほぼ半分以下になる。だから年齢が上がり、速度が落ちる前に、グラウンド主体の技を身に着けたり、代替になるムーブを探すんですよね。
さすがにもうそんなに動けないクレイジーに対して、古典的介入型ヒールムーブで間を持たせ、なんて悪いやっちゃと丸め込まれて負けたイザナギさんにはご苦労様でしたという感想しかない。酷い役割だ。
古典的と書きましたが、この悪いことをするヒールレスラーをやっつければその試合はめでたしめでたし、という筋書き自体が、かなりカビ臭い古びたものですよね……。


巨人、ジャイアント馬場が創設し、ヘビー級の大きさ、その迫力を一番の売りとしてきた全日本プロレスにおいて、ジュニアヘビー級は常にアイデンティティの確立が難しかった。かつては、というかそれこそ渕正信絶対王者であった時代は、技術を見せる事が一義としてあったと思われるが、理念の継承は武藤全日本時代を挟んで一旦途切れているし、もうよくわからない。
2014~2019年の5年間、全日本プロレスジュニアヘビー級における思想的イニシアチブを握っていた青木篤志は「全日ジュニア」のブランドを作らねばならないというようなことを言っていた。だが、実際それはどんなものを指していたのだろうか。技術がしっかりしていることは当然求められるとして、青木篤志にとって、いかなる試合こそが「全日ジュニアの理想の試合」だったのだろうか。自身が鈴木鼓太郎とやるような試合がそうか、と問われたら青木はNOと答えたと私は思っている。アレは二人の古巣「ノアジュニアの試合」だ。「ノアジュニア」はかつて丸藤が「ノアのジュニアは最強です!」と言った瞬間、そういう一枚看板として誕生した。この金看板の名前からイメージされる試合内容は、多くの観客の間でそう大きなブレはないだろう。そこにはすでに確立された世界観がある。そうではないものを青木篤志は求めていたはずだ。彼はそれを模索し続けていた。青木自身にも、明確な答えはなかったのかもしれない。だが、青木はきっとどこかにある、いつかたどり着けるはずの「全日ジュニアの理想の試合」について、考え続けることを止めていなかったと思う。『銀河鉄道の夜』の、「そんなんでなしに、たったひとりのほんとうのほんとうの神さまです」だ。言葉では語りえぬ神もいる。
私見を挟むと、ノアと全日の大きな違いは、家族的な絆と信頼を持つ者同士が作る世界観か、異なる出自の者たちがお互いの個性を認め合った世界観かということになると思う。ノアは「同じ釜の飯を喰った」四天王プロレス期を支えた人間達によって創られた団体であるためか、生え抜きはもちろん、初めは異なる出自を持っていた者たちも次第に家族的な絆を形成し始める土壌がある。
だが彼らの派生元であるはずの全日本プロレス本体にはそういった家族的な空気はあまりない。四天王時代がやや特異だったのだと言ってもよいのかもしれない。かつて大型外国人が何人も招聘された頃、十全なコミュニケーションは無くともジャイアント馬場という偉大なるプロモーターへのリスペクトの下、ビジネスへの愛情を前提に素晴らしい試合をしていた「あの感じ」、すなわち異質な者同士の信頼関係の空気が連綿と続いているように見える。
同質化の傾向が強いノアと、多様性を維持したままの全日本。
どっちがどう、と言うのではなく、両団体は同じ全日本系列であり試合自体の質や目指すところは似ているが、そもそも形成されていく人間関係の質が違うのだ。よって、青木篤志の理想を推測することは難しいが、かつての在籍団体のようなものは、ここでは作りにくいということはわかっていたのではないだろうか。とすれば、どんなものが彼の理想だったのか?
イザナギこと丸山敦は、青木篤志の死後(死後とか書きたくないですね。死ぬなよ青木)、青木さんの考えていた全日ジュニアとは違うものを目指している、と言い、重ねてそもそも「全日ジュニア」というものは無いのではないか、そういった一枚看板を付けること自体が違うのではないか、というような話をしていた記憶がある(ソース未確認で申し訳ないが、週プロか団体パンフかどっちか)。
多様性の維持、という意味では、もしかしたら丸山敦の方が案外本質を突いているのかもしれない。
丸山敦には丸山敦のジュニア観がある。
まあそれはいいんですけど、今回のこれは違うよね、イザナギさん……。

 

第5試合  岩本煌史所属ラストタッグマッチ

岩本煌史&ブラックめんそーれ vs 青柳亮生&ライジンHAYATO

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岩本煌史という選手への感情の乗せにくさは謎だった。
名古屋のローカル団体出身で、順調に経験を積んでその実力を見出され全日本プロレスに正式入団するに至った彼は、シンデレラボーイの枠に入ると思う。
……のだが、個人的にはなんだかずっと、「名古屋から来ている若手」の印象が抜けなかった。頑張ってると思っていたし、試合内容も嫌いではないし、特にジェイクとの身長階級差タッグは面白く観ていた。でも個人としてはなんとなく気持ちを乗せにくかった。全日所属のジュニア選手として応援するというより、名古屋から来たインディーの良い選手を応援しているのだという気持ちが消えなかったのだ。それは入団してもコスチュームも髪型も何ひとつ変えないんだもん、という見た目の話も大きいが、言動も常にマイペースで、心に残るような発言、引っかかりのある行動などがほぼ無かったのもあるだろう。思い返せば色々してるのに。団体の看板を背負う覚悟や苦悩というものが……無い訳ではないだろうが、例えばベルトがドラゴンゲートに流出した時の、横須賀ススム戦前後もなんだか冷静に感じられた。横須賀ススムに全ての進行をゆだねてしまっている感じというか。この辺は団体の差配も影響してくることなので、一概に彼一人の責任ではないだろうが。
外様から来て、キャリアはまだまだ浅く、試合はクールなカウンター型、言動もマイペースではまあ、本当にただ単純に気持ちが乗せにくい。難しいキャラ選びをしちゃったな、という感じだ。
ただそのキャラ選びというか、端々から感じられるクールさの理由の一端が、今回の退団会見や、そのあとの日記などでわかった。目標がきちんと設定されていたからだ。彼は、30歳までプロレスに身を投じて、その時自分の立てた目標をクリアできていなかったら継続しないと決めていたのだそうだ。キャラではなくて、もともとクール、クレバーな人なのですね。マイペースに見えたのは、自分の歩調を常に調整していたのだとわかった。突然走りだしたり、道を逸れたりはしない堅調さ。
そして、彼が自分で設定した目標はなんだかわからないが、とにかくクリアはできなかったという話だ。目標を常に見続けていた彼は、逆に言えば目標の外側にある様々な…雑多だけど重要なものを、いくつも見落とさざるを得なかっただろう。

青木篤志は(とまた青木の話になってしまうのだが)、困っただろうな……というのが岩本くんの退団会見で目標云々の話を聞いた時の感想だ。
青木は、例えばピュアにプロレスへの憧れをもってこの世界に入った選手を標的にした時は特に舌鋒鋭く、熱意だけじゃプロレスは良くならない、もっと考えてやらなきゃダメなんだ的なことを言い続けていたが、岩本くんは熱意だけでなく、色々考えた上であえて社会人を辞め、この世界に入って来た人である。考えているのだ。「もっと考えろ」は使えない。だから青木が「全日ジュニア」を作り上げるにあたり、所属となった岩本煌史を格上げせねば、というタームに入った時、まるで謎かけのようにマスクマンと化していたのは「気づけ」のメッセージだったのだと思う。考えているなら、気づけ。まだ気づいていない大切なことに、気づけ。

いやわかんねーよ!
なんでマスクマンになってんだよ!

……と、私が岩本くんならそう思うだろうし、事実、あんまり青木の意図や思いは、それが実際のところなんだったにせよ、伝わっていなかったと思う。
繰り返しになるが、青木篤志は一体、どのような選手とどのような試合をすることを目指していたのだろうか。彼が理想とする全日ジュニアのラインナップはどんなものだったのだろうか。その中に、岩本煌史はどのようなポジションとして居たのだろうか。今となっては何もわからない。
青木の「理想」に関して、私の予想を少しだけ書くと、高い技術やプロフェッショナルとしてのふるまいがあるのはもちろんながら、「乱調の美」のようなものを探していたのではないかと、勝手に思っている。プロレスが包括する様々な要素の中から、思いがけないようなケミストリーが生まれないだろうかと、試合をしている当の自分が驚くような何かが起きはしないかと、そう望んでいたのではないかと思う。鈴木鼓太郎との試合は完璧で、両者技術も高く、激しく、誰がどう見ても素晴らしいものであったが、しかし到達点もまた見える範疇にあるものだった(事実、北本での試合はひとつの到達点だっただろう)。そうではなく、予想を裏切り、かつ調和するようなもの……そういった試合を、それができる相手を、探していたのではないだろうか。
これは巻き込まれてやることになってしまった電流爆破戦の後、予防注射が終わった後の柴犬みたいなショボショボ顔になっていた青木の写真を見た時に考えたことだ(気持ちとしては嫌だけど、付き合いもあるしもしかしたら何か閃きがあるかもと思ってやってみたんだろうなって…)(そしてこれは違うなと思ったんだろうなって…)。

岩本煌史は自身の設定した目標のクリアには至らず、一旦レスラー業を休業することを決定した。上述の通り、彼の設定した目標がなんだったかはわからない。
この1年ばかりの、無差別級に挑戦するという流れもなんだか不自然で、会社のジュニアヘビー級への不遇が彼の進退を直撃したことは間違いないだろうと感じる。彼の関門であり、壁であった青木篤志の逝去、彼を入団させた秋山準の退団と、不運も重なった。そういったものを耐え、自身の設定した目標という枷を跳ね返してまでこの業界にしがみつきたいと思えることが、キャリアの中で生まれなかったのだろう。
例えば彼に、観ていて面白い関係性のタッグパートナーなどがいればもっと観客の反応も変わっただろうなあ。素の会話とか笑顔が大変魅力的な人なので、そういうところを引き出してくれる選手が横にいればね……。でもそういうのって全部巡り合わせだし、目標を作ったところで得られないものですしね。

そういう意味でも、まあやっぱりこの、青柳亮生&ライジンHAYATOというタッグは本当~~に素晴らしいので、絶対売れてくれ~~~~~と思うのですが、第4試合で世界ジュニア王座の権威がどん底に落とされた後なので、その輝きさえもただただ辛かったです。ああいう王座戦を良しとする団体にこんなデキる可愛い子達は勿体ないよ! めんそ先輩もそう思いませんか? という気持ちです。ジュニア不遇マジでやめろ。青木が浮かばれない。

 

第6試合  ゼウス全日本プロレス卒業マッチ「人生は祭」

ゼウス&諏訪魔宮原健斗 vs 石川修司大森隆男&本田竜輝

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『人生なればこそ 一回きりの祝祭』という寺山修司のエッセイがある(読んだことはないが)。
この試合に関して言うことはあまりない。
というかですね、ゼウスさんが最後に観客に向かって「自分が怒られるから」と言いながらワッショイ唱和を要請した件で、なんか諸々の思い入れがスーッと消え失せてしまいました……。団体が感染症対策を一生懸命やってる意味をわかっていない人が、プロレス団体の社長になって大丈夫なんですかね。万が一クラスターが発生したら、ゼウスさんが「怒られる」くらいで済むことではないんですよ。
ゼウスさんも割と早い段階でCOVID-19に感染していたはずですけど、無症状感染だったからあんまり実感がないのかな。なんかほんとげんなりしてしまった。
一部の客もノるな。

 

第7試合 野村直矢所属ラストスペシャシングルマッチ

野村直矢 vs 青柳優馬

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このカードは、三冠戦であるべきだった。三冠戦でしかありえないはずだった。

野村直矢青柳優馬は、2013年の分裂騒動以降、動員低迷が続いた全日本プロレスの希望だった。未来だった。いつかこの二人が三冠戦に挑むのだと、そしてこの二人同士の三冠戦が実現するのだと、あの時残った数少ない観客の誰もが――そう、誰もが――二人の将来に夢を抱き、成長を見守るために会場に足を運んだ。
どんなに激しく素晴らしい試合がリング上にあっても、動員が伸びない。
そんな日々が続けば、客も不安になる。自分達が面白いと思って観ているこの素晴らしい試合は――客観的に見ると、もしかして素晴らしくないのか? と。
勿論そんなことはないし、自分の感性を信じろとしか言えないが、そういう不安感が漂っていたのは事実だ。客入りだけを根拠に全日本プロレスをバカにしてくる別団体ファンに憤る時、とはいえ何故? と不安を覚えなかった全日ファンがいるだろうか。それゆえ当時のファンダムは苛立ち、ひりつき、ちょっとした煽りに右往左往して選手を責め立てさえした。会場に足を運べば、当の選手達の素晴らしい試合によって絶対的な満足を与えられて帰路につくことができるのに。
内部の人間の焦燥はいかばかりだったろうか。激しい試合をしても、クオリティの高い試合をしても動員が伸びない。概ねにおいてチケットの売れ行きというものは、営業と広報とマスコミの問題だ。しかし分裂後、人手も営業ルートも資金も何もかも手元に残らなかった全日本プロレスには(借金はあった)、まったくその辺を仕掛けていく余裕がなかった。パンフレットの選手紹介がアー写ですらなく、なんかの画面キャプチャだったことも一度や二度ではない。しかも解像度が低いんだよ。悲しすぎる。そんな状態で、なんとか団体を存続させていただけ立派とすら言える。
いずれにしてもリング上は常に面白く、熱く、激しく、クオリティが高く、地方大会でも手抜きはなかった。選手に動員に関する責任はないと明言できる。当時と今で選手主導の話題作りのキャッチ―度がどちらが高いかと問うても、実際大して変わらない。だが、矢面に立つのは選手である。

団体がそんな状態の中デビューした野村、青柳は一体どのような気持ちでこのキャリアの最初の数年を過ごしていたのだろう。不安がなかった訳ではないだろう。だが、彼らは付いて来た。当時道場長を務めた青木篤志による鬼の指導で、次々と(というほどたくさんはいなかったが)他の入門者が脱落していく中、特に格闘技系の部活経歴などを持たぬ二人はアマチュアレスリングの基礎部分から地道に学び、時に青木の長時間説教を食らいながら成長していったのである。
このブログで何度か書いているような気もするが、かつてジャイアント馬場は、若手の育成は守・破・離を基調とするものだと語っていた。野村と青柳の二人は、この育成方法にぴったりと沿った成長を遂げた。まだ「守」の段階で大日本プロレスやW-1との対抗戦に連れ出さざるを得なかったのはあまり幸運とは言えなかったが、それさえも今は大きな糧となったと言えるだろう。
野村と青柳の二人は、全日本プロレス道場長青木篤志、そして社長秋山準がゼロから作り上げた作品だ。2013~2019年の5年間、全日道場はこの秋山-青木ラインを中心として指導を行っていた。プロレス団体における道場は、将来のスターを生み出すという10年先、20年先を見据えた設計思想が必要だ。秋山にはジャイアント馬場から受けた指導の経験と、時に三沢光晴の相談も受けていたノア時代――幾人かの育成を果たし切れなかった――を経ての反省と改善点を加えた育成ノウハウがあり、青木には積み上げられたレスリングの経験とロジックがある。
ジェイク・リーもこのラインナップに加えて当然とは思うが、彼は一旦デビューして戻って来た上に総合格闘技の経験もあるため、ゼロからのスタートではなかった。本当にまっさらの素材を一流のプロレスラーに育てあげたという意味ではやはり、野村と青柳なのだ。

2019年、青木篤志がバイク事故で逝去し、2020年、秋山準全日本プロレスを退団した。二人はもういない。そして今また、野村直矢が去っていく。

野村は、野村だけはなんとしても遺留するべきだった。野村はこの約2年前、首の怪我で長期欠場に入っていた。かなり深刻なものであったらしく、本当に復帰できるのかどうかもわからないまま、リハビリに励んでいたようだが、とにかくこの空白期間のことは何もわからないに等しい。Twitterアカウントの更新は止まり、2週間にいっぺん更新される「プロレス/格闘技DX」の野村日記には、お天気と飯のことしか書かれなかったからだ。いずれにせよ、秋山去りし後、新体制となってからの全日本は野村にとって距離のあるものであったことは間違いないだろう。LINEのグループとか入ってなかったんだろうな。2015年~16年前半のEvolution加入時、あまりに口下手な野村を見かねた青木と佐藤が3人のグループLINEを作り、ヒールっぽい罵倒の仕方を教えようとしたらしいが(余計なお世話)、そういうやつ、なかったんだろうな。野村は欠場前「陣」というユニットに入っていたはずだが、いつの間にか「陣」もなくなってしまった。外部からの加入者である2AW吉田綾斗の反応を見るに、どうも事前連絡とかなくうやむやに解散したっぽいし。グループLINEくらい作れよ。報連相しっかりしなよ。マジで。
この試合前、青柳はインタビューで「陣加入が野村さんの破滅の道だったんでしょうね」などと怖い単語選びをしていたが、まあ単純にそういうフォローアップから切り離されるぞ! という話だったんじゃないかと思う。フォローアップが絶対必要な人格なのに、野村くん。
ともかく、この2年の間に野村の心は全日本プロレスから離れ、そして「新しくやりたいことを見つけた」のだそうだ。それが退団理由だと。
全日本プロレスは、自団体で野村の夢を叶えることを約束できなかったのだろうか。
まあそれがラーメン屋さんになりたいとか、カップケーキ屋さんになりたいとかだったら困るだろうが、それでも会場内で販売したり通販できるようにするから! とか言えなかったのか? 方便でもいいから言っておけよ。フィナンシェ屋さんになった近藤修司ドラゲー売店でもお菓子売ってるらしいぞ。
そもそもあの2013年の団体分裂直後に入門し、青木の苛烈な指導にも動員どん底期にもめげることなく王道レスラーの道を邁進してきた男が、退団するのである。「全日本プロレスという看板を裏切った」などという低次元な話ではないのは明白だ。そんな理由ならそもそも白石期に入門しねえよ。野村直矢という人を甘く見るな。もっと彼が居るのに相応しい場所を見つけたか、現在の全日本プロレスが彼に相応しい場所ではなくなったか、あるいはその両方かだ。
確かに、野村直矢の心を知る手がかりは少ない。デビュー直後のパンフレットにあったインタビューによれば、好きな選手は小橋建太。実際、本人もかなり小橋建太を彷彿とさせる選手に育った。じゃあなんでノアに行かなかったのかと言えば、団体分裂による混乱期の全日本の方がデビューできそうだったからというかなり尖った打算によるものらしい。存外に野心の人でもあるのだ。
彼を指導した青木篤志は、こんなやつはすぐ辞めるだろうと思っていたらしい。遅刻、寝坊も多く、青木を何度も激怒させた。道場の上の寮に住んでるのに遅刻するか? すごい才能である。しかも適当な言い訳をするのだそうだ。どう言いつくろっても寝坊は寝坊だよ……!
全日本プロレスは、もっとリハビリ中の野村に留意するべきであった。野村と密に連絡を取り、生活を支えてやるべきだった。でも、それをしなかったんですよね。なんでしなかったの? バイトしてるらしいという噂がまことしやかに流れていたが、マジで?
全日本プロレス専務に再び就任した諏訪魔は、野村退団報告に著しく気落ちした様子だった。でも、今までちゃんと野村くんを気にしとったんか? 諏訪魔さん、マジで他人に興味ないし、自団体の若手にも興味ないですよね。かつてアマチュアレスリングのオリンピック候補生にまでなったものの、階級消滅により五輪出場ならずという経歴を持つこの専務は、アマチュアレスリングの経歴の有無以外に他の選手を測る物差しが無い。体の大きさが並外れていれば引っかかるようだが、ジョー・ドーリングや石川修司クラスの人間がそうそうゴロゴロしている訳もない。分裂期以降苦楽を共にした野村青柳なんかより、W-1の芦野にレスリング経験があると知ればそっちにばかり興味が行く人なのだ。この辺は潮﨑豪という最高のライバルが団体内に居ながら、ほったらかして当時まだIGFの藤田の方へ行こうとして大やけどした2015年の彼への個人的怨みが非常に強いので、興が乗ると延々「ふざけんなよ」という気持ちを書き連ねてしまいそうになるのでこの辺でやめておきますが、まあなんというか、そんなに気落ちするくらいならLINEグループ作っとけ、頻繁に顔を合わせろ、Twitterでやりとりしとけという話です。
さらに言えば、野村直矢がどんなにしんどくても爪を立ててしがみついてきた全日本プロレスは、秋山準体制下のものであった。新体制との差異は何か。新体制の特徴は、先に書いたジュニアヘビー級軽視、著しいキャラクタープロレス化、そしてまあ一番の勘弁してくれポイントは、チャンピオンカーニバル公式戦で乱入とかあったことですよね。ヘビー級はある程度守られているのかなと思いきや、そうでもなかったという。しかもよりによって宮原対芦野で乱入だと。バカじゃなかろか。
キャラクター化という点で言えば、野村が欠場している間に、青柳は「陰湿キャラ」となり、ジェイクは試合中に高笑いをするヒールキャラとなっていた。
じゃあ素でトンチキ発言連発の野村は一体何キャラにされてしまうんだ……と心配していたが、何かのキャラにされてしまう未来は実現せずに済んだ。野村退団は寂しすぎるが、変なキャラ付けで語尾になんか付いたりする野村くんを観なくて済んだことには非常にホッとしたというのが正直なところだ。
野村は、TAJIRI的な、SMASH的な、WNC的な、W-1的な、キャラ付けでお客に選手を認識させようとする小手先の手法から最も遠いタイプの選手だ。
小橋建太がそうだ。
小橋が高笑いするヒールキャラをやったら万人が震えあがるだろうが、それはキャラの怖さではなく、「マジで壊れたのかな」の震えである。
小橋だけでなく、四天王の持つキャラクター性は、基本的に素の言動から導き出されたものだ。川田さんはあえて強面キャラをチョイスしていたっぽいが(後年ハッスルで確認されたように、お笑いもできる人なのに)、とはいえ厳しくえげつない言動の数々は素のものだろう。今ここで四天王を例に出したのは、「全日本プロレスの生え抜き」という系譜としてだ。鶴田も、秋山も大森もそうだろう。渕、小川、みんなそうだ。何かのキャラやキャッチフレーズが先行したものではない。大体小川さんの全日時代の「翔龍戦士」ってどういうキャッチだ。いや「龍」が天龍さんの龍なのはわかるが……。
おしゃべりが全く得意なわけではない野村は、まさにこの「素」の系譜に連なる選手だ。秋山に考えて喋れ、マスコミが取り上げること、タイトルに使いたくなるようなフレーズを作れと散々言われた青柳は(野村も同じように言われていたはずだが)、まさしく秋山が望んだ舌鋒鋭い選手となった。それはいい。素晴らしいことだ。でもそれは「陰湿キャラ」なんかじゃない。観察力が鋭く賢いというだけだ。陰湿っていうのはもっと嫌な後味が残ることばかり言って、実力が伴ってないやつのことだろ。青柳のようなハードバンプな試合をする選手は、そもそも「陰湿」にはなりえないのだ。今回死んだふりを試合中にしてましたけど、陰湿とはちょっと違うんじゃないですか(「ドッキリ作戦」だよね…)。

一度団体から心離れた野村が、いざ復帰を考える段になった時、現在のリング上を見まわして、一体おれはどのような立ち位置を、どのようなキャラを振られるのかと不安になっても仕方ないのではないか。その辺のケアはしたんですかねえ?
全くそのようには見えない全日本プロレスフロントへの気持ちは、完全に青柳優馬の試合後コメントと同じだ。

「今日のことを一生後悔しろ」。

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野村直矢全日本プロレス在籍ラストマッチは、非常に素晴らしいものだった。
欠場前と同じか、それ以上の肉体を造り上げて挑んだケジメの一戦、試合内容も以前の試合に勝るとも劣らないレベルだった。
キャリア年数としては後輩にあたるものの、野村の欠場により約2年間のアドバンテージが発生し、その間エンドゲームという複合関節技のフィニッシャーとしての価値を高め続けた青柳優馬の勝利は当然のものであり、野村が例え以前と全く異なる肉体(3倍デカいとか)を造り直して出て来たとしても、揺らぐことではない。
だが野村は、その青柳の血がにじむような努力にすら、肉薄して見せた。
これが、野村のわずか8年…休んでいたのだから6年といっていいキャリアにおいてなされること自体、凄まじいことだと言える。
野村の、爆発力と表現されることが多いが、突如として鬼の形相と化し、相手の首根っこを引き掴んでのエルボー連打、予備動作のほぼないぶっこ抜き系の投げ技、全て健在であり、むしろ磨かれていたようにさえ思えた。2年という月日が彼から奪われることが無ければ、必殺技も返し技もより一層の強度を増し、手が付けられない凄まじい選手へと成長していただろう。

繰り返しになるが、野村と青柳は青木篤志(と秋山準)が作り上げた作品である。
であればこそ、話が戻っていくが、青木の理想の相手、理想の試合とは何だったのかと考えた時、もしかしてそれは野村直矢が担えるものだったのではないか? とふと思う。階級が違うので「全日ジュニア」にはなりませんけど。でも青木が2019年のチャンピオンカーニバルで、青柳、宮原とシングルマッチをやった時のあの感じで、野村直矢とも試合をしていたらどうだったろうか。
基礎はきっちりしているのにロジックで突き詰めきれず、突然思いもよらぬ方向に爆発する野村の読めなさは、青木が「完璧以上」の試合を作り上げる相手に相応しいのではないだろうか。
いや、わからないし全部推測でしかないんですけど、青木に今の、あるいは(この後野村がプロレスラーであり続けたとして)数年後の野村直矢と試合をさせたかった。きっと青木は、試合のさなかにびっくりしただろう。そして自分にびっくりすることがあるなんて、その相手が野村だなんて、と思ったはずだ。

その野村直矢を作ったのはあんただ、青木篤志

どうして今日、あんたの姿がどこにもないんだよ。

 

野村直矢がこの後、どういった人生を送るのかは、全日本ラストマッチからまだ3日しか経っていない今、完全に不明である。
1月末のロイヤルランブルWWEデビューし、レッスルマニアブロック・レスナーと試合をして4月には世界のNAOYAになっているかもしれない。
日本の別団体に移籍するのかもしれない。
全然違う職業に就くのかもしれない。

できることなら、プロレスを続けて欲しい。そうしたら、青柳ともまたリング上で会う日が来るだろう。この業界はNever say neverだから、縁があればいつかどこかでつながるはずだ。
できることなら、私が最も思い入れのある2013-2015年の全日本プロレスで生まれた選手として、今はもう忘れられつつあるあの狭間の時代がこの業界に存在した証拠として戦い続けて欲しい。
できることなら、コーチとしての青木篤志が作り上げた選手として、青木の指導がどこの団体でも通用するようなものだったということを証明し続けて欲しい。
青柳は今はもういない秋山-青木のエッセンスを残す者として、全日本プロレスに残ることを選んだ。であれば、野村はそれが外部にどこまでどのように通用するのか、挑戦してみて欲しい。

 

でも本当はなんだって、どこだって、野村くんが行きたいところで、やりたいことができるならなんでもいいんだ。

私が初めて思い入れを持って、リアルタイムに追った2013-2015年の全日本プロレスは、素晴らしいが同時に厳しく辛い時代だった。
野村くんはあの頃、未来の象徴、赤く燃える希望の炎だった。
まだ若く、毎日大変だったろうに、そういう存在でいてくれて本当にありがとう。

 

野村直矢がどこに行こうとも、幸運が彼を守ることを、ただ祈り続ける。

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【12.22追記】

この12.16後楽園ホール大会の記事が掲載された週刊プロレスNo.2157が発売されたので購入し、該当記事を読んだのですが、概ね私が↑で書いた会社批判的なものが的を得ていたことがわかり、心底ぐったりした気分になったと共に、いくつか新しい事実もあったのでそのことについて補足追記をします。
詳しくは週刊プロレスを読んで頂くこととして、とりあえず一番衝撃的だった一文を引用させて頂きます。

治療を経て状態の落ち着いた野村はプロレス以外の仕事を見つけ、心はすでに全日本プロレスから離れていた。

いやあの、バイトしてるらしいという噂を聞いた話も↑に書きましたが、就職してた!?
宮尾記者の記事は、色々書いてあるものの、推定部分が多いので、確定事項として読めるのはこの「治療期間は終わっていた」というところと、「就職していた」というところだと思われる。
宮尾記者の推定も含めると、時系列は以下のような感じだろうか。

治療期間が一応終わった

野村と団体の間でなんらかの事項が合意に至らず復帰の算段が付かなかった(この辺、退団会見では首がまだ完全に治っているとは言えずGOサインが出せなかったというような説明はあったし、野村自身も少し痺れが残っているとは言っている)

交渉決裂し、野村はプロレス以外の職業に就き、団体側はこの件に関してほったらかしたまま今に至っていた

団体内には野村の名前を出すのはタブーであるかのような空気が漂うようになっていた

同期であるジェイク・青柳の強い要望により、保留のままとなっていた野村の件を年内に片を付けるという運びになり、退団マッチが組まれた

 

…………いや、あの、↑でも書いたけど、ほったらかすなよ。
マジでなんなんだろう。正気を疑うレベルだ。

頸椎椎間板ヘルニアは非常に扱いが難しい。首はプロレスラーの生命線だ。
2012年に一度引退したエッジは、レッスルマニアの後、ドクターチェックで「あと1回でも試合をすれば、一生車椅子で過ごすか死ぬかのどちらかです」と言われ、引退を選んだ。彼の現役キャリアを一度絶ったのは、2003年に大手術をして治ったはずの首だった。
8年間の休養を経て、エッジはリングに戻って来られたが、それはさておき、首のケガは「車椅子か、死か」という言葉がある日突然提示される類のものなのだ。
なので、野村を復帰させるか否か、そのタイミングはいつかということについて揉めるのはわかる。わかりますよ。
でもなんで決裂に至ってそのまま放置してんだよ!!!!

本当にどうかしている。企業として、無責任にもほどがある態度だ。
「プロレスラーは個人事業だ」という言葉は、まるで慣用句のようにこの業界でよく使われている。毎日のトレーニング、自己研鑽、技の研究、コメントや日常での発信を含めた自己プロデュースなど、プロレスラーがやらなくてはならない「仕事」はリング上だけに留まらず、それは会社のコントロールを離れている部分が大きいためだ。会社がどんなに持ち上げても、トレーニングをするかしないかは本人の意志次第だから。それはまあ、そうだ。
……とはいえ、野村の事例を待たずとも、会社側がこの言葉に甘えてきたという側面もまた、かなり大きいように思われる。最終的な責任をレスラー個人に帰し、本来雇用主が負うべき社会的責任を手放している側面が。
レスラーの行動が個人事業主に見えても、企業が賃金を払い、労働契約の下に彼らを使用しているのであれば、立派な企業労働者である。これはフリーだろうがなんだろうが、企業が契約で守る範囲にいるなら誰でもそうだ。当たり前だ。一般企業で、正社員でないからといって、労働基準法を無視して働かせるようなことがあってはならないのと一緒だ。
企業には企業の責任というものがある(この話は次に書く予定のエントリに続く)。

 

現在の全日本プロレスについて、私はもはや問題提起や抗議をしようという気力は一切ない。事ここに至り、なるようにしかならないという諦念の方が圧倒的に強いからだ。
ただ、今回野村の件を埋もれさせずに働きかけたと思しき(思しき、でしかないが)青柳、ジェイクの二人をはじめとした、真っ当なレスラーも在籍していることを忘れずにおきたい。もうそれくらいしか私にできることは無いからだ。青柳、ジェイクの同期愛というものが少しでも見えたのは、今回の件において、わずかではあるが救いにはなった。

 

どうか彼らの被る苦しみが少なくて済みますように。

そう祈るしかない。

リプリゼンテーションの色々な形

 

gazesalso.hateblo.jp

 ↑のエントリを書いて、ずっと一緒に考えていたのが、リプリゼンテーションの必要性とその大きな影響力についてでした。
創作物や有名人の中にマイノリティ属性の人がいることで、その属性の人が「こういう風に生きていいんだ」と希望を持つことができるので、当然リプリゼンテーションは必要です。
トランスジェンダーのこれまでの創作物の中での扱いを総括したプログラムとしてNetflixが『トランスジェンダーとハリウッド(Disclosure)』を作ってくれたのは本当に大きくて、リプリゼンテーションの事については「これ見て!」で終了してもいいくらいになったように思います。
エグゼクティブプロデューサー兼語り部の一人として出演しているラヴァーン・コックスは本当に素敵な役者さんなので、みんなついでに『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』も見てねって感じです。

www.netflix.com

 

近年ゲイ、レズビアンは、昔の悪役or悲劇の二択からもっと豊かで多様な生活を送る存在として描かれるようになりましたし、トランスジェンダーにも光明は差してきているように思います。

しかしアセクシャルのリプリゼンテーション…と考えた時、あまりにもものが少なすぎるてまだ何も言えない、というのが現状ですよね…。まあAはLGBTにも入っていないので…。
あらゆる属性が出てきたかに思えるNetflixのアニメ『ボージャック・ホースマン』では、メインキャラクターの一人トッドがアセクシャルとして自覚、カミングアウトしていくところまでは良かったのですが、「性的に惹かれるという機微に全く無理解」だったり、最終シーズンで「アセクシャル同士の出会い系アプリ」を作って出会った人と同棲を始めているなど、いくつか疑問の残る表象になってしまったのが残念でした。
恐らくトッドは「ロマンティック・アセクシャル」で、他人に恋愛的な惹かれ方はするけど、性的に惹かれることは無いという属性だったんかな…とか想像することはできるんですが、主題じゃないせいもあって端折られすぎていたように思います。
それでも、トッドが両親に対して吐露する「僕は一人前の大人だ」という思いは、性的関係を築けないため独り身で生きるアセクシャルが受けたことのあるであろう「未熟な人間扱い」への悲しみや怒りとして、立派なリプリゼンテーションの役割を果たしていたとは思います。
創作物を見ていて、アセクシャルかなあ…と思うキャラクターはいないでもないのですが、ほとんどの場合明言されることはないですよね。それに異性に対してよそよそしいなーと思ったらレズビアンだったとか、別ルートの回収をされることもあって、明言されるまではリプリゼンテーションとして見ることはできないのですよね…。

個人的なつらみになってしまうのですが、『アドベンチャータイム』のプリンセス・バブルガムは、シーズン1くらいの頃の主人公フィンへの淡々とした態度から、当初はアセクシャルなのかなと思って観ていました。
最後にはきちんとマーセリンとのキスも描写されて、レズビアンカップルのビッグアイコンとなった彼女にそういうつらみを掛けてしまうのはこちらも申し訳ないのですが、「あ、違ったんだ…」というのはちょっとしたダメージも喰らいます。
あとは『アナと雪の女王』のエルサですね。エルサは作中明言されていないので、まだアセクシャルとして見させてくれ~! と思うのですが、世界では「エルサに同性の恋人を」キャンペーンをするファン活動が盛り上がったりしているので、割と戦々恐々としています。いやディズニーがそっちに梶を切ったら、立派なレズビアンアイコンになるしそれは素晴らしいことだと思いますが……でもほんと確定された瞬間にこっちの手元はゼロになっちゃうので…やるならその「傷つけ」を割り切る覚悟をもってバッサリしっかりやってくれと思います。

というか別に文句は言いませんから、レズビアン表象だって少ないんだから、アセクシャルはもう少し我慢しろみたいな、マイノリティの順位付けを言い訳にするのだけは、やめてください。こっちはもっと無いの! 我慢させられている間も、若いアセクシャルの子は自分を未熟な人間のできそこないだと思って苦しんでるんですよ。
少ないパイを奪い合うのは意味がないけど、さらに数が少ない連中はもうちょっと我慢しろよって論調だけはやめて欲しいです(これはそういうことを言うひとがいるから書いてます)。

最近知ったばかりなのですが、インディーゲーム『one night, hot springs』シリーズの3作目『spring leaves no flowers』が、もろにアセクシャルを主題としています。

youtu.be

私はこちらの紹介動画を見て、1作目からプレイ中なのですが、1作目と2作目がトランスジェンダー、3作目がアセクシャルを主題とした選択式ノベルゲームです。
まあ~~~なんというか、当事者としては「周囲が優しすぎるだろ!!」と思いますが、これは多分1作目、2作目をやったトランスの人もそう思うことでしょうね。
でも、優しい世界で丁寧に心の機微を描写してくれることで、当事者だけでなくより多くの人の心にリーチする作品になっていると思います。
トランス、アセクシャル当事者だけでなく、もっと多くの人に触れて欲しい作品です。
私はこの↑動画で本当に信じられないくらい泣いてしまって、自分がどれだけ同じ属性のリプリゼンテーションに飢えていたのかわかりました。

私はもうずいぶん前にこういうことを割り切り、独りでバリバリと、でも趣味をきっかけにした友達もいて(みんなありがとうございます)楽しく生きていて、自分を未熟だとも思っていませんが、誰かにこういう話をしてほしかったと心の奥でずっと思っていたんですね。

Twitterアセクシャルであることを書くようになってから、時折検索で私のツイートに行きついたであろう若いAの子に「いいね」をもらったりするようになったのですが、そういう子のホームを見に行くと、大概みんな自分は非人間的な魂の持ち主なのではないかという自責に苦しんでいます。いつも違うよ、そうじゃないよと声をかけたいと思いつつ、FF外から失礼しますで急にそんなこと言われても怖いだろうと思いとどまっているので、届かないとは思いますがここに書いておきます。

「あなたが他人に性的に惹かれることが無くても、非人間的なわけでも未成熟なわけでもありません。性的関係以外にも、人間の関係性はたくさんあります。あなたが人間社会の中でどのように生きていきたいのか私にはわかりませんが、人に関わるにしろ、極力関わらないにしろ、自分の尊厳=プライドをきちんと持つことで、同様に他人の尊厳も尊重していけば、あなたの望む生き方はできるはずです」

このエントリに特にオチはないですが、多様な生き方ができる社会になるといいね…という気持ちをここにおいて、またこのエントリが小さなリプリゼンテーションのひとつとなることを祈って、オチとさせて頂きます(オチがないと不安になるタイプ)。

非当事者なりのトランス差別への抵抗として

私はTwitterを運用するにあたって、「過去に差別発言をし、その訂正をしていないアカウントが正論を言っていてもRTしない」という自分ルールを敷いているのですが、これのおかげで最近どんどんRTできるアカウントが減っています。
民族差別をしない→病気や障がい者等の差別をしない→女性差別をしない→LGBTQAの差別をしないというように篩をかけていくと、普段反差別的言動をしているアカウントでもLGBTのTで引っ掛かるアカウントが爆増しているからです。その大半は女性です(男性はまあ、気にも留めていないので発言もしない人がほとんどだからでしょうが)。

LGBTQAの「A」の人間にとって、これは本当にキツいです。自分のとこまで判定基準が来てねえ。
私は性自認は女性のシスなんですが、性的指向はあえて言うならバイロマンティック・アセクシャルで、男女両方に愛情を抱くことはあるけど、性的には何にも惹かれないみたいなめんどくさいやつです。アロマンティックだったらもっとわかりやすかったんですけど、どうもバイなんですよね。これまで生きてきて明らかに「好み」の男性/女性がいたのでこれはそうだと思ってます(めちゃどうでもいいですけど、「推し」はこの「好み」の枠ではないです…)。20201102追記:用語が間違っていたので修正しにきました。デミって書いてたんですけど、バイですね。デミ性はあんまりないです私。ただバイロマではあるんですけど、とにかく相手からのリターンが無理なのでそういう意味ではリスロマンティックの方が優先されるのかな…優先とかなくて併記しておくのがいいのかと思うので、バイ/リスロマンティック・アセクシャルですかね。こういう定義づけってめんどくさいとは思うんですけど、定義によって認知が生まれるというか、結局定義しないと「ヘテロのできそこない」のまんまなんですよ。だから定義は大事です。アイデンティティになりますから。
だからシス女性一般が男性に対して感じる「恐怖」は十分に理解していますが(痴漢にあったことも、まだAの自認がなかったころにはいわゆるデートレイプ案件も何度も経験しています)、同時にシス女性の中で一般的な異性愛女性から異物のように扱われる経験もしています。人間的に未成熟なものとされたり、非人間的と断じられるやつですね。Aが受ける被害というのはこういう精神的なものが多いと思います。肉体的な被害は大概望まぬ性行為の強要なので、要するにレイプであり、犯罪被害に相当するのでA特有の被害とはちょっとカテゴリがズレるかもしれません(ただ、A自認がないころに恋人のような関係になった人に流されて関係を持ち、自認を持った後にそれがずっとトラウマになってるとかはAあるあるな気もします…)。

トランス差別をするシス女性のほとんどは、トランス男性ではなくトランス女性を執拗に攻撃しているように見えます。おそらく、そういった女性達は、一度「男」という特権を持って生まれた人間が、それを手放すことなどあり得ないと思っているのでしょう(そしてトランス男性について深くは考えていなそうに見受けられます)。
でも、それは違います。
トランス女性は、女性です。
大枠の「女性」というカテゴリの中では少数の、多数の女性とは異なる背景を背負っている女性です。それだけの話です。
私も性自認ではなく性的指向の面でいえば、「多数の女性とは異なる背景を背負っている女性」です。でも普通に暮らしています。
それでも彼女達は、トランス女性には生理がないから、とか、女性として育てられた抑圧がないから、とか、いろいろ「ダメ出し」をしてなんとか「女性」のカテゴリからトランス女性をはじこうとすると思いますが、そもそもですね、子宮に障害があって生理がない女性もいますし、若くても病気で子宮を全摘した女性もいますし、逆にもうめちゃくちゃ健康でさらにご家庭が自由でメチャお金持ちだったりして想像しうる「女性的抑圧」が全くない人生を送っている「女性」もいるのです。
余談ですが、昔仕事で数人、男女雇用機会均等法以前に出世した女性にお話を聞く機会がありました。その時、いろいろあって生理の話を全員に聞いたのですが、全員生理がめちゃくちゃ軽かったんですよね。女性ならではの悩みにこたえる、みたいな趣旨でインタビューしたのに、生理痛もないし、出産も超安産だったし、実家が太くてバックアップもすごいので何も悩みはない、みたいな人もいました。
数人なのでサンプルとしては少ないのですが、男女雇用機会均等法以前に活躍している女性、ほぼほぼスーパーウーマンすぎて現代の女性と目線が合わないのでは…と困惑した記憶があります。これ、ちゃんと統計取ってほしいですね。

話が逸れましたが、要するに一口で女性と言っても、背景は様々です。
というか、肉体的な条件を基準にすると、あっという間に病人と障がい者がはじかれて、優生保護法みたいな話になるんですよ。
よく聞く「女装した男がトランスと言い張ってトイレで盗撮などをする」みたいなやつは、実際それ何件あったの?という点において、完全に女性専用車両の話をしているときに痴漢冤罪の話をする人と同じ藁人形論法です。あとそれ、「男性」が犯人の話ではないですか?「トランスと言い張って」の時点でトランスではないですよね。
こんな怖い発言をしている人がいた!もともと男だからこういうことを言うんだ!というのも、なんというか女性差別撤廃を訴えているときに、男性に男性器の写真を送りまくって罵倒を繰り返すタイプの攻撃的な女性(ツイレディとか)を指して「こんな下品で暴力的なやつがいるから女性差別はあって当然」と男性に言われたら「いや、そいつはさあ…」となりませんか。あと罵言を吐く人は女性にも死ぬほどいるので「男の証拠」にはなりません。
差別が起きている、と指摘されたときは、まず穏やかに語ってくれている人からで構いませんので、当事者の声を聴いてください。
それから、こちらのサイトの「トランスジェンダー」のカテゴリのニュース記事を読んでみてください。記事の半分以上が、暴力事件です。いやがらせ、暴行、殺害…トランスジェンダーが受けている実際の生々しい被害を、よく知ってください。

www.ishiyuri.com

 

人がたくさん死んでいるのです。
そして、死というリスクに直面しても、やはりトランス女性/男性は、己の自認を貫こうとしているのです。トランスジェンダーが、なにかよからぬ意図のために装っているだけなら、死を突き付けられた時点で普通やめませんか?
それくらいの想像力をもってほしいです…。

あと、女性差別が解決していないのにトランスの権利とか言い出すなみたいな言い方も、トイレの藁人形論法に関連して時々見かけますけど、そういったより大きな集団のために小さい集団に忍耐を強いるのって、政治運動の中で女性差別が起きた時のあるあるですよね。政治問題が解決していないんだから女は黙ってろという論法。
ひとつの差別を解決するために、他の差別を黙認するなどといいうことが、どうして許されるのでしょうか。反差別に例外を作ることは、原理的に不可能です。何かへの差別を許せば、自分が受けている差別にも道理があるということになりますから。
私はトランスジェンダー当事者ではありませんが、少し似た位置にいるマイノリティ属性の一人として、すべての差別に反対します。
そして繰り返し言うのは、トランス女性は女性、トランス男性は男性です。ついでに言えばノンセクは無性です。

Twitterで初めてフェミニズムに触れた人の中に反トランスが生まれてしまうメカニズムは、肌感覚で理解できます。女性の抑圧を再認識してしまうということは、そのあまりの無惨な歴史、加害の残した深い傷跡を、自分もまた負っているいうことを認識するということに他ならないからです。男性性への強い敵意も生まれるでしょう。それでそのまま被害者意識から動けなくなってしまうのも、わかります。でも、だからといって自分たちよりさらにマイナーな立場の人間を「雑に」(トランス女性を男性と決めつけて)抑圧しても良い理由にはなりません。

敵はそっちじゃない。敵は家父長制でしょう。

我々はともに家父長制の被害者です。労りあい、連帯すべきなのです。