Gazes Also

…もまた覗く

洞窟の影のようでそうでもないもの

2020年7月20日付けで更新されたプロレス格闘技DXの選手日記『オレ、メジャーやから』にショックを受けたので、そのことに関していくつか思うことをまとめておきます。

『オレ、メジャーやから』は2年前の2018年1月1日に全日本プロレスに入団した丸山敦選手の日記として始まり、タイトルからわかるように(わかるか?)2001年に大阪プロレスタイガースマスクとしてデビューして以来、長く日本インディマット界で活躍してきた丸山さんがついにメジャー団体に入ったということで、彼の来歴を自ら紐解きつつ現況を綴るという内容でした。
丸山さんが何故か神の使徒として目覚め、イザナギを名乗り出してからも日記は同タイトルのまま続いていたのですが、ただ6月から1ヶ月ほど彼が「失踪した」ということで更新が止まっておりました。ギミックが多すぎて文章にすると書いている私ですら意味がどんどんわからなくなってくるのですが、修飾を省いて起きたことだけど書くと事実そうなってしまうので、それだけ書いておきます。
課金コンテンツなので詳しい引用等は控えますが、久しぶりに更新された内容は、失踪中の話が語られるのではないかという大方の予想を裏切り、7月1日付けでDDTへのレンタル移籍が決定した秋山準(と去年交通事故により逝去した青木篤志)への思いを語ったものでした。

 

 

大阪プロレスで一時代を築いた後、2014年の退団後は関東以北に活動の場を移し、みちのくプロレス大日本プロレスを中心にやはりインディマットで活動していた丸山敦がいわゆる三大メジャー団体の一つである全日本プロレスへの入団を考えたのは、秋山準との出会いが大きかったのだという。
丸山は2016年頃からフリーの選手として全日本への参戦が増え、2回目の出場となった2017年のジュニアバトルオブグローリーの最終戦(8人しかいないのに2ブロックに分けたので4試合しかなかった)2.24名古屋大会で中島洋平を破った後、「全日本プロレスを死に場所にしたい」と語った。少し長いが該当箇所を引用する。

「僕も今年40でそんなに長くは戦えないですけど、この全日本プロレスのリングを死に場所として、最後がっちり戦っていきたいと思います。自分プロレスラーなんで、自分が本当に凄いと思った人間の下でしか命かけられないですよ。全日本プロレスは今、秋山さんがトップで命張っていて、本当に士気が高いですし、自分の目標としてもジュニアヘビー級の最高のタイトルである世界ジュニアがあります。自分の目指すスタイル、その自分の前にいる青木選手がいます。相手もいいですし、トップも最高ですし、自分の最後のプロレスキャリア、全日本プロレスでゴールするつもりでここに上がってます。優勝は逃すかもわからないですけど、必ず全日本プロレスにあるものを自分が全部盗んで、自分のプロレスを完成させて、悔いなくプロレス人生終えたいと思います」

この前後の試合コメントは、基本的に「(リーグ戦は)最後はインフルエンザウイルス頼みです」というとぼけたもので、この名古屋大会だけがこういった真剣なコメントだった。
もうほとんど、7月20日の『オレ、メジャーやから』の答え合わせのような内容である。
この日、あとは秋山に自分の思いを語ってなんとか全日本のリングに上がり続ける、と宣言した丸山は、それから10ヶ月、2018年1月1日付けで思い叶って全日本の所属となった。ジュニアのリーグ戦に出場する実力者であり、決める時は決めるものの、通常はおもしろ系選手としての立ち位置であったため、なんとなく2017年1月に退団したSUSHIの後釜に入ったかのようでもあったが、とにかく彼の思いは通じたのである。
入団時の挨拶は「全日本プロレスの名を汚さぬよう一生懸命がんばります。自分に期待されるのはやはり強いプロレスだと思っていますので。これから自分の実力で、カッコイイプロレスをどんどんやっていきたいと思います。これまでの私は忘れてください!」というものだった。
個人的にはタイガースマスク時代の丸山さんをほとんど知らず、みちのくのイーグルスマスク以降の丸山の印象が強い私は、そういえばSUPER J CUPに出たり色々している人なのだ…とぼんやり思った記憶がある。とはいえその後、入団時の宣言とは裏腹に全日本プロレス所属丸山敦の試合はやはり基本的におもしろ系路線であり、いつしか「強いプロレス」宣言があったことは私の、というかほとんどの観客の脳裏から消えて行ったように思う。

ちなみに2009年のSUPER J CUPに出場し、1回戦で丸藤正道と戦って敗れたタイガースマスクの映像は、新日公式がYouTubeにあげている。今よりも技は多彩で動きのキレも段違いだが、相手が相手なので良さを出し切れないまま技術で翻弄され、掌で転がされて終わったという感じの試合だった。正直、これで彼を評価するのは難しい(というか丸藤を尺度にして他人を評価するのは無理だ)。なおこの時のSUPER J CUPの優勝者は丸藤である。
7分程度の短い試合であり、最後は不知火をロープに掴まって変な形で外した変な間の後、丸藤のオースイ・スープレックスホールドを変な感じで受けて3カウントを聞いている。なんだか変な間が発生したな…という感じは全体的にあり、そもそもタイガースマスクは入場時に足を引きずっていたり、最初から最後まで「変な」雰囲気だった。最後の変な感じは投げっぱなしのタイガースープレックスかと思ったらそのままホールドするオースイだったとか、色々読み違いが発生したのかなとも推察できるが、全体的に「タイガースマスクは何かしようとしたけどできなかった(その何かは何なのかわからない)」という印象だ。とはいえ、新日本のリングで「タイガー!」と応援されるタイガースマスクこと丸山さんという光景はなかなか面白いので、未見の方は一度ご覧になって頂きたい。

youtu.be

これを見てひとつ思うのは、この時「全日本育ち」の選手と邂逅した丸山敦は、相手にあって己にないものを薄々感じ取っただろうということだ。
それは何なのか。
技術か、経験知か、発想か、思想か、哲学か。
とにかくそうしたものを意識したとは思う。知らんけど(←これは丸山さんの口真似)。
そうして短くは無いキャリアの中で、幾度かの機会を経て生まれた小さな疑念……「この業界にはオレの知らない部分がある」……というようなものを、決定的にしたのが恐らく、秋山準との出会いだったのだろう。

7月20日の『オレ、メジャーやから』から、一段落だけ引用させて頂く。

オレの知らないプロレス。オレのたどり着いていないプロレス。オレが知りたかったプロレスを持っている神だった。 

 秋山準との別れにより、ついに丸山敦はこの、己の命を懸けた職業における未知の領域の謎を解けずに終わるのだろうか。あるいはその未知の領域は、懸命の努力があれば、独力でもたどり着ける場所なのだろうか。
……恐らくではあるが、「独力」では無理なのではないだろうか。
未知の領域の名は一般的にこう呼ばれている。

「王道」

あのジャイアント馬場が生み出し、その教えを継ぐ人間によって今も堅持されている、技術であり、経験知であり、発想であり、思想であり、哲学である。

 

gazesalso.hateblo.jp

 では具体的になんなのか? というと、上記のエントリで書いたように、この錚々たる面子の中でさえ「全日本プロレス=王道」観は分裂しており、正解は無いように見える(今も全日本プロレスと王道をイコールで結ぶ事ができるならば、という前提においてだが)。
では「王道」のイデアを持つのはジャイアント馬場ただ一人であり、彼亡き後は各人の解釈を通して洞窟の影のように乱反射して真実の姿がわからなくなっているのが現在の「王道」なのか?

それがそうでもないのではないだろうか、というのがこのエントリの本旨だ。


……7月1日付けで行われた秋山準DDTへのレンタル移籍が発表された時、全日本のファンを中心に「王道が失われる」のではないかという懸念が巻き起こった。
しかしレスラーならぬファンは、具体的に「王道」のなんたるかということを語る術を持たないため、失われるものはそもそもあるのか、という地点で話が迷子になり、大体そんな話をしたところでもうすでに事は決定してしまっているためどうしようもなく、この話題は消えていった。

しかし、私が今まで見てきたものを総合すると、まず第一に「王道」というものは存在している。ジャイアント馬場に特有の哲学があるかないかなど、問題にするのもおかしいだろ。あるに決まってるわ。第二に、それは実のところ結構普通に言葉として語られてもいる。
上記の「全日本プロレスとは何か」で各人の言葉がバラバラなのは、総括して一言で言い表すことを求められているからだ。現場で実際に運用されている、全日本プロレス特有の、つまりジャイアント馬場が生み出した技術であり、経験知であり、発想であり、思想であり、哲学は、言葉として知識として存在しており、継承者によって守られている、と推測できる。
なぜ具体的な技術のなんたるかを知りもしないはずの一ファンである私がそんなことを断言できるのかというと、なんとなれば80~90年代の全日本プロレス中継で、ジャイアント馬場が解説を務めている回を見ると、割と喋っているからである。それは心構えから後進の育成まで内容は多岐にわたるが、私の記憶に強く残っているのは90年代後半の試合で、新人指導に関する話をしていた回だ。
全日本プロレスにおけるレスラーの育成は、「守・破・離」であるという話をしていた。「守・破・離」は千利休が残した訓の一つで、「規矩作法 守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」からの引用である。
一人前になるには、師の教える型を徹底的に守るところから始まり、それを完璧に体得した後、自分自身に合う別の型を模索することで、基本の型を破る。そうして基本の型と、自分に合う型を身につけた後、初めてそれら既存の型たちを離れ、自分自身の型を見出すのだ(そしてそうなった上でも、基本を忘れてはならない)。
この言葉を念頭に置いた上で秋山準社長下での新人育成の状況を思い起こすと、野村、青柳の二人にはこの「守・破・離」を徹底させていたことがわかる。
大日本プロレスやW-1との若手対抗戦においては、最初から「破」を許されている他団体の選手達に対して、二人はかなり遅れを取っているように見えた。それは、彼ら二人は秋山準によって、ジャイアント馬場がかつての愛弟子達にそうしたように、大器を作るための方法論を適用されていたからである。
また、いくつかのインタビューなどを読むと、全日本系の選手と組んだ選手がパートナーからのアドバイスによってリング内の機微に関する認識を高め、「このキャリアになって言ってくれるとは思わなかった」と語っているのを散見できる。例えばジャンボ鶴田にアドバイスされた谷津嘉章がそうであり、近年では、潮崎豪と組んでいたころの宮原健斗が全く同じことを言っていた。だから、「王道プロレス」という一見漠然としたように思われる概念も、恐らくそのほとんどは言葉で語りえるものなのだ。
ただ、それは体系的には残されてはいないし、育成方法など団体経営のノウハウはともかく、リング内の所作などに関しては、「そのシチュエーション」にならなければ言葉を引き出せず、継承者本人を見て納得しなければ、体得も難しいものなのだろうと推察される。

丸山敦は、彼の未知なる領域であるところのもの、つまり「王道」をジャイアント馬場本人から伝承された秋山準の傍近くにいることで、体得しようとした。丸山の日記を読むと、3年ずっと傍に居たにも関わらず、ついにその核心を得たとは思えなかった様子だが、それは「そのシチュエーション」を作れなかったのではないかとも思う。関係ないときに「そのシチュエーション」に無縁の人間にいきなりそんな話をしたりはしないだろうし……。
自らをコミックリリーフにするのではなく、入団当初の誓いのように、強い丸山敦を追及していたら、あるいは何か違ったのかもしれないが、今となってはもうどうにもならないことである。
ついでに書くと、先日行われた丸藤正道とのトークショーで「人に教えること」について訊かれた秋山準は「オレはこういう性格なので、言葉で話すより、試合した方が早い。隣に立つより、対戦した方がいい」と語っていた。となると、現在の王道伝承候補はどう見ても竹下幸之介がナンバーワンである。まあプロレス界全体のためにはそれはいいだろうが、全日本プロレスはこの捨ててしまったものに見合う何かがあって秋山準を手放したのだろうか。恐らく見合うものなど全世界のプロレス団体を探したってありはしないのだ。
これまで大日本、ECW、WWEを経て、ハッスル、SMASH、WNC、そしてW-1と後半は指導者としての面も見せてきたTAJIRIが知っているのは、これまで彼が手がけた若者達へのプロデュースを観るに、短い観戦時間でも客に名前と特徴を覚えてもらえるような選手の作り方ではあれども、明らかに「大器」の作り方ではない。そしてストーリーラインではなく選手個人の資質に依存した試合作りをモットーとしていることによって観客の支持を集める全日本プロレスこそ、世界のどの団体より「大器」なしには回せない団体なのだということも忘れるべきではない。

守・破・離の話に戻って考えるに、先日渕正信週刊プロレスのインタビューで、全日本プロレスに堅持して欲しいこととして「基本を守ること」と答えていたことはまさにこれであり、同時期に清宮海斗小川良成に教わっていることとして、「基本を守れ」と口を酸っぱくして言われているという話をしていたのも、まさにこれである。
とはいえ、定期参戦状態になって久しい渕と、53歳にして現役のタイトルホルダーであり、清宮やHAYATA、岡田などの若い選手に試合前の「教室」を開いている小川では、団体の現在進行形への食い込み方が違う。

なので…まあ…全日本がもし完全に「王道」を捨てて……ストーリーライン重視のエンタメ路線になったとしても、分家であるNOAHに正統派が残っているのなら、なんか……もういいんじゃねえの……? というのが最近の正直な気持ちです。ましてやNOAHの現GHCヘビー級王者潮崎豪は、三沢小橋の薫陶をゴリゴリに受け、本人もまた過去の試合や馬場さんの言動の参照を怠らない最後の「正統継承者」ですし……。しかも最近は団体の側がそのことをきちんと認識して発信してますし……。もうこれでいいんじゃない? ダメか?
いやダメだろ! 本家にこそ残っていなくては! と思う全日ファンは、ちゃんとフロントに対してダメだろ! って言わないとダメなんじゃないでしょうか。これまでの離脱騒動などと違い、応援している選手が残留した状態での変革であるせいか、観客はなんとか今の状況に順応しようとしているように見えますが、順応しちゃいけないんじゃない?

ていうか、FMWもハッスルもSMASHもWNCもW-1も、武藤全日本も、鈴木軍下のNOAHも、日本においてエンタメ+ストーリーライン中心路線にシフトした団体はことごとく失敗していることについて、少し考えた方がいいですよ(DDTはなんで生き残っているのだろうと考えるに、自分達がメインカルチャーではないという自覚がしっかりあるからだと思われる。他の団体はエンタメによってメインカルチャー足りえようとして失敗したのだ。しかし全日本はプロレス界のメインカルチャー…「王道」だぞ)。

そして「大器」となるべく作られたはずの野村、青柳がこの変化において、どのような違和を覚えるのか、そして道がどのように逸れてしまうのか、これも少し考えた方がいいですが、考えると憂鬱にしかなりませんね……。
私はもう上に書いたように、全日本の他のことに関しては「もう全日フロントが歴史も伝統もいらんちゅうならなんぼでも変わったらいいんじゃないですか。分家が血を継ぐことだってあるでしょ」みたいな投げやりな感じなんですが、野村と青柳だけはぐちゃぐちゃに巻き込んでほしくないという心が残っております。2013~2015年の、バーニングの5人がいた時期に多大な思い入れを持つ人間として、この暗黒低迷期(試合内容は最高だがとにかく金と営業とコネが死に絶えていてビジネスとして暗黒低迷してる頃)に未来ある若者が入団してくれたことでもたらされた希望は計り知れないので……。
潮崎退団時の全日ファンによる罵詈雑言(なんもしてないとか言ってる人いっぱいいましたけど、そういうファンにとって五冠戴冠の価値って無いんですねえ~! 王座に価値がないならどういう基準で試合を見ているんですかねえ?)で鬱憤が溜まりに溜まり、その後鈴木鼓太郎が再度全日リングに上がった際、岡田祐介から「全日本のファンに鈴木鼓太郎を応援している人間などいない」という趣旨の発言を受け、複雑な気持ちで見守ってたらそんな風にいないことにする発言されて、あーもうほんならファンクラブ辞めますわと辞めて以来、マジのマジで今の全日本という団体に対する愛情は冷めて久しいのですが、でも野村と青柳だけは! 野村と青柳だけは! 彼らの努力に報いて立派な選手にしてやってくれよ! 

社長、今からでも秋山準と仲直りしてくれ! 頼む!!!!(頼むおじさん*1

 

しかし2013年分裂以降の全日客入り超絶不調期を、激しくクオリティの高い試合で支えたバーニングの5人は、これで全員いなくなってしまいました。

なんだったんだろうほんとうに…(虚無)。

 

 

*1:害悪ヤジおじさんの一種。「●●、わからせてやってくれ頼む!」みたいな、対戦相手を異常に低くみたクソヤジを飛ばすおじさん。コロナ禍で声が聴けなくなった