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…もまた覗く

スーパー・ササダンゴ・マシンTwitter炎上の記録と検証

半月前になりますが、夏休み最終日の8月31日、DDTプロレスリング公式サイトに以下のような「お詫びとお知らせ」が掲載されました。

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ササダンゴ・マシンのツイートに関するお詫びとお知らせ | DDTプロレスリング公式サイト

この度、スーパー・ササダンゴ・マシン選手がTwitterで、DDTの信用を著しく貶めるような誤解を招くツイートをおこないました。

また、弊社代表取締役社長・高木三四郎は当該ツイートを不用意に拡散し、それがDDTの総意であるかのような誤解を皆様に与えてしまいました。

株式会社DDTプロレスリングとしてはこの件を受けて、ササダンゴ・マシン選手の9月分参戦大会のギャランティーを50%カット、高木三四郎の9月分報酬を20%カット致します。
ファンの皆様には今回の件でお騒がせしたことを深くお詫び申し上げます。

(※太字は筆者)

誤解という単語が2回登場し、重ねて強調されているのが気になったので、太字にさせて頂きました。

ギャランティーカットという処分に、起きた事件の重大さを感じる「お知らせ」ではありますが、この文章だけでは、スーパー・ササダンゴ・マシン選手がTwitterで何か良くないことを書いてしまい、それを拡散した高木三四郎社長共々処分を受けたということだけしかわかりません。

例えば1年後に新しくファンになった方が遡ってこの「お知らせ」を読んでも、何が起きたのかは理解できないでしょう。

このエントリの目的は二つあります。

スーパー・ササダンゴ・マシン選手が書いてしまった「誤解を招くツイート」とは一体なんだったのかということを、今後の再発防止のために記録すること。

そして、この件に関して「何がいけなかったのか」ということを、これまた再発防止のために検証することです。

 

では経緯から振り返ってみましょう。

経緯

・8月30日 12時08分

スーパー・ササダンゴ・マシン選手がTwitter上で以下の2ツイートを発信。

プロレス界で言えば、世間ではプ女子(=プロレス好き女子)だなんだと注目されていますが、それは私が届かせたい相手ではありません。
そもそも、広告代理店やテレビ局が作った幻想ですよ。一人当たりの消費量、支出額で僕を支えてくれるのは30代、40代の男性。
黄色い声援は硬貨、男性の声援は紙幣。

これは実感ですが、実際にそういうデータ取りをちゃんとやっていて、その人たちが喜んでくれそうなこととして始めたのが煽りパワポなんです。
これを気に入って30代、40代の方が会場に来てくれて、その人たちは今は会社では中間層ですけど、出世すれば、チケットをまとめて買ってくれるようになる。そういうビジョンも大切なんです。

当該ツイートは既に削除済みのため、以下はご提供頂いたスクリーンショットです。

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この2つのツイートからまもなく、彼が主戦場としているDDTプロレスリング高木三四郎社長がリツイートしたことで、プロレスファンを中心に拡散。主に女性ファンからの困惑や怒りが反応として現われます。

 

・ 8月30日 12時17分

 今まで彼をフォローしていたにも関わらず、わずか10分足らずでフォローを切るほどの怒りを見せるファンも現れ、問題が表面化。

 

 ・8月30日 15時07分

当該ツイートがかなりの速度で拡散し始め、怒りと困惑を招いている様子を感じてか、男色ディーノ選手がフォローに入ります。

 

・8月30日 15時10分

スーパー・ササダンゴ・マシン選手は、ディーノ選手のフォローからわずか3分後に当該2ツイートを削除。

元の原稿(後述の「煽りパワポ」)についても反省の意を表しました。

最終的なRT数はわかりませんが、記憶ではディーノ選手のフォローが入る前くらいの時間帯で400RT弱程度になっていましたので、それ以上の数値にはなっていたと考えられます。

この段階ですでにプロレスファン以外の層にも当該ツイートが知れ渡り、発言内容に対する非難と、社長がそれを無批判にRTしたということは「そういう団体」なのだろうという失望も多く見られました。

 

・8月30日 15時54分

ツイート削除を受けてディーノ選手がまたもフォロー。

 

・8月30日 17時16分

高木三四郎社長もリツイートの件をお詫び。

 

・8月31日 18時16分

DDTプロレスリング公式サイトに「お詫びとお知らせ」が掲載され、Twitter上で告知される。

 

・8月31日 18時19分

スーパー・ササダンゴ・マシン選手も自らのアカウントでお詫び。

 

以上が事の発端と終息までの大まかなまとめになります。

 

 問題点

 当該ツイートの問題点は、どこにあるのでしょうか。

それをじっくりと洗い出してみましょう。

 

ツイート削除後のお詫びでも「元の原稿」として言及されていましたが、あまりに唐突なこの当該ツイート2つは、実のところ「Yahoo!ライフマガジン」に掲載された『プロレス界の「煽りパワポ」名人直伝! 心に響くプレゼンの極意』からの一言一句違わぬ引用でした。

引用という断り書きが無いまま発信されてしまいましたが、恐らく彼の目的はこの記事の宣伝であったと考えられます。

lifemagazine.yahoo.co.jphttp://archive.is/f5NGj(魚拓)

 

 ツイートとして引用されたのは、「プロレス界で言えば~」以下の箇所です。

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 この発言は、複合的な問題を孕んでいます。
そもそもKPIの話を外部に面白おかしく話そうとしているところが大きな間違いであり、様々な層がいる観客をすべて「一企業(DDT)の身内」として捉えて【内部事情】の話をするというキャラクター自体がそもそも危ういという結論(のひとつ)を出して一蹴してもいいくらいなのですが、それはこのエントリの本意ではありません。

 

まずは現代国語の問題として、一節ずつ見て行きましょう。

 

プロレス界で言えば、世間ではプ女子(=プロレス好き女子)だなんだと注目されていますが、それは私が届かせたい相手ではありません。

 ここでもうすでに少々言葉足らずの感がありますね。

また『プ女子だなんだ』という表現を選択している時点で、彼にとって『プ女子』は軽い存在であることがよく伝わってきます。

長めの補足を入れつつ言い換えるとしたら下記のような形になりますでしょうか。

「現状、プロレス界において世間様に話題を提供しているものと言えば、近年脚光を当てられるようになった『プ女子』(プロレス好き女子)という存在。プロレス界でもこの『プ女子』をターゲットとしてイベントや商品展開を行う動きが活発だ。しかし、私はこの『プ女子』に自分の魅力を届けたいとは考えていない」

……プ女子がメインターゲットではない、というのはただの宣言として特に問題ないですが、「届かせたい相手ではない」とシャットダウンするのは、この一節に限ってもやはり言葉が強すぎると感じます。

 

そもそも、広告代理店やテレビ局が作った幻想ですよ。一人当たりの消費量、支出額で僕を支えてくれるのは30代、40代の男性

「消費量」「支出額」という「経済力」がこの話題のキーであることが示されました。

ここは非常に大きなポイントです。なぜなら、ここは「僕」の話だからです。「僕」のファンは男性が多い、という話で終っていれば、特に問題は起きずに済んだことでしょう。この件に関して「何も大げさな」という感想を抱いている多くの人は、恐らくこの「僕」の印象を強く捉えているのではないでしょうか。

しかし国語の問題として捉えると、前節で彼は「私」という一人称を選択していました。記事の方を読んでも、基本の一人称は「私」です。これは公人としての一人称であり、DDTプロレスリングという団体での活躍のみならず、お笑いプロレス「マッスル」を立ち上げ、業界を動かしてきたマッスル坂井としてのパーソナルを前面に押し出してこの話を始めているのです。ですから基本的にこの一連の文章は「私」を基調に考えるべきでしょう。

ここで急に紛れ込んだ「僕」という一人称は、自分個人のファン(の男性)への語りかけが行われているだけにすぎません。短い文章の中で一人称が変わるのは混乱の元。「おれ」「わたし」「わし」が1ページの間に出てくる『北斗の拳』のラオウほどではありませんが……。
少し気になるところとしては、この「僕」には10代~20代や50代以降の男性ファン及び女性ファンは本当の本当に一人もいないのでしょうか。一人でもいたとしたら、単純に考えてかなり傷つきますし、相当な裏切り行為ですよね。

 

また前半の「『プ女子』という存在は広告代理店やテレビ局が作った幻想」という言及に関してですが、これはプロレスファンにとっては何を今更、という感じです。

広告代理店やテレビ局が(主に新日本プロレスへの)観客誘導を目的に作った「プロレスが流行っている、女性人気がある」感を演出するための言葉、それはその通りでしょう。そのハリボテが作られる過程を見てきた既存ファンなど、内部に居る人間にとって『プ女子』のイメージはあまりよくありません。

そもそも「○○女子」「○○男子」という用語は、既存の差別的な性規範イメージを踏襲し、性別が異なっている時点で見ているものが違うから理解し合えないはずだ、というファンダムの分断を図ろうとする下品で低劣な表現です。

ファンダム内部的な『プ女子』のイメージを上げるとしたら下記のような感じでしょうか。


・ミーハーで移り気
・内容を理解していない
・表面上の楽しさだけを消費している

一言で言えば「リスペクトのないミーハー」。
少なくとも、「素晴らしい観客」へ向ける表現としてこの言葉が使われているのを見たことはありません。
女性ファンの中にも『プ女子』を自称している人も居ないわけではありませんが、「まだ観戦を始めてから期間が短いので、作法がよくわかりません」という意味で使っている方が少々と、女性アイドル・タレントが自分のわかりやすいキャラクター付けのために名乗っているくらいというのが実情かと考えられます。

1年ほど前に「プ女子の知らないプロレス用語」というハッシュタグTwitterで流行りましたが、その内容のほとんどがただ昔あった出来事を書いただけというくだらなさを見れば、プロレス業界やそのファンダムにおいて『プ女子』がどれだけ馬鹿にされているのかがよくわかります。

作り出された用語にすぎない『プ女子』は、現実の女性ファンとノットイコールの虚像です。しかしそれをすべての人間が承知していれば、このハッシュタグのようなことは起きないはず。
これはつまり、「女は皆リスペクトのないミーハー」と考える女性差別者が内部に結構な割合で存在しているということの証明に他なりません。彼らがその差別思考をこの言葉に便乗させて使用することで、ただでさえ無礼なこのマスコミ用語がさらなる不愉快感を付随させる羽目になっているのです。


ですからこの言葉を業界内部の人間が使う場合、一体「どこ」に向かって喋っているのかということが重要になってくるのです。
「内部」→「外部」の場合は、女性ファンを指すマーケティング用語として、わかりやすさを優先し、あえて使った言葉になります。『プ女子』という呼び名に腹を立てている女性ファンとしても、この使用は腹が立つけどまあギリギリ仕方ない、という理解と許容の範囲でしょう。
しかし「内部」→「内部」に向かって使う場合は、先述のようなハッシュタグ遊びがある現状、ひとつの目配せがそこに含まれることになってしまいます。つまり、「あいつら(プ女子)とは違う本当のファン」に向けて語りかけていますよ、というエクスキューズサインが発生してしまうのです。

今回の場合は、全体のニュアンスを鑑みるとどちらの意味合いも等分に持っていたように感じられます。少し邪推にはなってしまいますが、流行語に逆張りして、その言葉に反感を持っている層の支持を得たいという下心がまるっきりないとは思えません。

 

余談になりますが、そもそも女性ファンという存在は、ずっとプロレス会場に存在していました。

今よりもテレビ放送が多く、各団体でビッグマッチが毎月のように行われていたパイの大きな時代は当然のこと(全女が横アリを満杯にしていたことを考えれば、今の女性ファン率は減少していると言えるのかもしれません)、下火と言われたゼロ年代中ごろでも、いつの時代の試合映像を見返しても「黄色い声援」はそこにあり続けてきました。

大体、広告代理店やテレビ局が『プ女子』という用語を作ったからと言って、突然そこに女性が現れるわけがありません。女性たちは元々そこに居ました。先ほど流行演出のための用語と書きましたが、付け加えて言えば、曖昧なまま存在し続けていた女性たちを明確なマネタイズの対象とするため、彼らによって新しく与えられた名札が『プ女子』だったのです。

確かにゼロ年代までのプロレス業界の大半において、基本的に女性ファンは団体レベルでの営業戦略面ではあまり考慮されない存在でした。(国内ではないので指標としては弱いですが、グッズ展開が多く、この方面においてかなり先進的と言えるWWEが、現在Womans sizeとしてほぼ全種に適用されているフィットタイプのTシャツを販売し始めたのが2002年頃でしょうか? ただしこれはトップ中のトップスターに限ったことで、ほぼ全種に用意されるようになったのはかなり最近の2010年以降です。まあフィットタイプを女性用として出すことも、フェミニズムの現場では批判されているのですが…*1
しかし足しげく観戦に通う姿やマーチャンダイジングへの支払いなどと言った面に関しては、男性とさして変わらない態度である、もしくはより積極的であろうというのが現場の実感です。女性ファンは母数こそ多くはなかったかもしれませんが、いつでも惜しみなくプロレス業界にお金を落としてきました。文句も言わずに。それにも関わらず、今でもこの扱いなわけです。

さらなる余談として言うのならば、そもそもミーハーで何が悪いのでしょうか。迷惑さえかけなければ、楽しみ方は人それぞれでしょう。

ついでに言うと、ミーハーなものの見方をしている層というのは、性別とはあまり関係なくどこにでも一定数存在するものです。ミーハーな男性、いっぱいいますよね? 何故女性ファンだけが、ミーハーであることのスティグマを負わせられなければならないのか。それが女性差別でなくてなんだと言うのでしょうか。

 

黄色い声援は硬貨、男性の声援は紙幣

話を戻しましょう。

この箇所が最も反感を買っているところです。

「女性ファンの声援の価値は低い。男性ファンの声援こそ価値がある」

そもそもこんな言葉が21世紀を15年も過ぎた今、平気で通用すると思っていること自体どうかしていると思います。
しかしこの国のものづくりの現場ではいまだに、どんなに女性の支持を集めても無意味、男性が支持してこそ「本物」であるというような差別的信仰がまかり通っているのは事実です。野蛮すぎます。けれどそれがまかり通っているからと言って、対外的にそんなことを公人が言うことはまず有り得ません。それくらいの社会道徳はどんな企業・公人でも持ち合わせているものです。

国語の問題として見ると、前段まではまがりなりにも個人的な話だったにも関わらず、ここで主語の無い転調が入ることで、一気に「一般論として」話している形になってしまうのです。せめて「僕にとって」という表現が頭にくっついていれば、ここまでの大事にはならなかったかもしれません。

「女性」という単語すら使わず、「黄色い声援」という言葉を代入しているのも印象が悪いですね。

 

これは実感ですが、実際にそういうデータ取りをちゃんとやっていて、その人たちが喜んでくれそうなこととして始めたのが煽りパワポなんです。

 ここでまた主語のない言い回しが続くため、前節の「一般論化」効果がさらに進んでしまっています。

データ取りをしたというのは結構ですが、どこでどういうデータを取ったのかという説明がありません。そのため、言及されているデータが「僕」のマーチャンダイズのみを対象としているのか、DDT全体のマーチャンダイズに関してなのか、はたまたもっと大きくスポーツやエンタメ全般におけるグッズ購買層にまで広げた話なのかわからないのも大きな問題点。

恐らくではありますが、前節の一般論化の転調が差し挟まれたことによって、「一般論」と「僕」の中間地点である「DDT全体のマーチャンダイズ」のことであると読んだ人が多いのではないでしょうか。

煽りパワポ記事の方の続きを読むと、編集サイドからの「現状分析のための、アンケートなどでのデータ取りの必要性」という一文があるため、どこかでアンケートを取っていたのかもしれませんが……。何にせよこれもどこでどういう対象に向けて取ったアンケートなのかわからないままでは、論ずるに値しません。

前節とあわせて読むと、「30代、40代の男性で、日常的にパワーポイントを使用した企画プレゼンなどに接している会社員を対象にすると、紙幣をじゃんじゃん使ってくれるので、彼らを優遇していきたい」と読めます。しかしその根拠となるデータは典拠がわからず曖昧なもの。文頭に「実感」という言葉が使われていますが、その通りこの文面においては彼の「感覚」に依拠したものでしかないのです。

 

 これを気に入って30代、40代の方が会場に来てくれて、その人たちは今は会社では中間層ですけど、出世すれば、チケットをまとめて買ってくれるようになる。そういうビジョンも大切なんです。

ここで女性ファンを「対象」から外した理由を、個人が持つ「経済力」の安定性と発展性に結び付けてしてしまったのは、この一連のツイートの中で最も批判を免れ得ない箇所でしょう。これまでの文章がかなり女性ファンを煽り倒すような内容を含んでいた上での、この経済問題への言及は決定打です。これは炎上しますよ。

何故企業に勤めている男性でなければ彼の「対象」になれないのか? それは「出世しないから」。

はっきり言って、最もわかりやすいフレーズであったために反感を買っている硬貨云々は、まだ言葉遣いの過ちとして処理することはできます。腹は立ちますが、失言レベルの問題に抑えることは可能です。

しかしここで、女性の経済力、企業における立場を「理由」としてしまったことは、女性差別的な制度・慣習が未だに続く日本の労働環境の肯定、ひいては差別の肯定でしかありえないのです
「男性は出世する(女性は出世しない)」としている時点で、女性差別の構造が社会に存在していることに思い至らなかったとは言わせません。

現代の日本において、女性と男性の経済力は不均衡な状況です。
「性差」と「経済力」を結びつけて語る時、まず前提としなければいけない現状の問題をまったく考慮しなかったというその態度こそが、今回の炎上の原因であり、問題点なのです。

「企業で出世の見込みがある白人男性をメインターゲットにしています。(黒人は出世しないから)」と言い換えれば、この表現がどれだけやってはいけないことなのかがわかるでしょうか。

 

知らなかった、という方のために性別格差の現状を以下にまとめましょう。

ササダンゴ選手が示したように、2016年においても女性が出世して管理職となる確率は大変低いです。

今年8月に帝国データバンクがまとめた「女性登用に対する企業の意識調査」によれば、企業における女性管理職比率はなんと6.6%。管理職が全員男性で女性が1人もいない企業は50.0%にも及ぶとのことでした。昨年のヘイズの調査においても、外資系企業との合算にも関わらず、19%というアジアでも最低の数値が出ています。

政府は2020年までに女性管理職比率を30%までに引き上げたいとしていますが、残り4年でそれが達成できるとはまるで思えない、惨憺たる女性差別的労働環境と言えるでしょう。

www.nikkei.com

何故企業において女性の管理職が少ないのか。それは当然ながら、能力の問題ではありません。

物理的要因として、そもそも企業内に管理職となる年齢層の女性が少ないのです。日本企業には男女雇用機会均等法以前、新卒女性を「社内結婚相手」として採用し、寿退職させ続けていた過去がありました。人事というか女衒ですね。最低です。また出産後の復帰システムも機能していなかったため、女性は管理職の年齢になるまで企業に残ることができなかったのです。

当然ながら最も大きいのは、社会構造の問題です。

①長期継続雇用前提の年功的な内部昇進

②配偶者が専業主婦の世帯主を暗黙の前提とした長時間労働や頻繁な転勤等の働き方

③専業主婦世帯を優遇する税制や社会保険制度

なぜ女性管理職は増えないか 「30%目標」を遠ざける“日本的雇用慣行の疾患”|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン

 これらを前提とした社会制度や慣習が、女性のキャリアアップを阻害しているのです。人口が低下し、労働力も減少しつつある今、女性のさらなる社会進出とそれを支えるワークライフバランスの見直し・是正は、どんな企業においても喫緊の課題。しかしまず男性が意識を変えなくては、何も始まらないのです。黒人奴隷の解放を宣言したのは白人大統領のリンカーンですよね。不当に支配する側にいた者が、その自覚を持って過ちを正さなければ、平等な世界というものは来ません。

管理職採用の問題だけでなく、さらに言えば日本の男女賃金格差は主要25カ国中ワースト2位なんですよ。

2014年度に経済協力開発機構OECD)が加盟国34カ国を対象に行った調査では、全日制労働者の性別賃金格差は28.7%。最も格差が少ないハンガリーの3.9%に大きな差をつけられています。

www.huffingtonpost.jp

そんな状況の日本ですから、世界経済フォーラム(WEF)が毎年調査・発表している男女平等(ジェンダー・ギャップ)指数ランキングで、いまだに先進国の中で唯一100位の壁を超えることができていません。2015年は101位。項目別では経済活動の参加と機会が106位、教育が84位、健康と生存が42位、政治への関与が104位です。

memorva.jp

これが現代日本における女性の現状なのです。
明白に、数字の上で女性差別が存在しているのです。
「女性」と「経済力」に言及する場合は、最低でもこの現状認識を持っていなければ、意味のある言説はまずもって作れないと断言して良いでしょう。

現状環境を無自覚な下敷きとして立てた論説は、「差別を気にも留めていない」という無神経さを露呈するのみ。

今回の件を問題視した多くの人は、その無神経さにこそ腹を立てているのではないでしょうか。

 

まとめ

「お詫び」の文に誤解という言葉が重ねられていましたが、別に誰も誤解などしていません。彼が意図的に女性差別を行おうと思ったなどと解釈している人間はいないでしょう。ファンの分断を行おうとはしていましたが。

彼はただ、あまりにも不用意な言葉で、現代日本の女性差別的社会構造を見てみぬふりをし、何なら軽くミソジニーを抱いて生きてきた男性であるという地金を露呈させたのみにすぎません。男性優位構造にどっぷり漬かって生きてきた日本人男性にはよくあることです。

しかしながら表現者であり、公人である人間がやってはいけないことですし、率先して改めていくべき事柄ゆえに、今回の炎上事件は起きたのです。

何にせよ「マーケティング」を踏まえたプレゼンという表現形態を取ったことが、不用意にもほどがある言葉を死ぬほど並べてしまう要因となり、その社会人キャラクターゆえに真っ当な批判を浴びることになったと言えるでしょう。キャラクター相応の責任を被ったという形です。
例えばバラモン兄弟が水やドッグフードを撒きながら「プ女子来るな!」と言ったところで、わざわざそれを糾弾しようとはあまり思いません。ご兄弟のことが好きですからちょっと傷つきますけど、そういう差別問題に関して女性差別以外にも様々な綱渡りをしているキャラクターなのは先刻承知ですので……。

ササダンゴ選手の発言は、先ほど一節一節ごとにバラして見ていきましたが、見事に全ての節が不用意ですよね。

□プレゼンのテクニックばかりにこだわっていないか?
□自信満々すぎて、態度が大きくなっていないか?
□勢いに乗って、独りよがりの内容になっていないか?
□最後まで確認をしたか? 誤字脱字は絶対見逃してはいけない
□誰のためのプレゼンか、何のためのプレゼンか、明確になっているか?

 この「煽りパワポ」の〆が誤字脱字を除いてほぼブーメランとなっているあたり、この社会人キャラクター自体が彼に向いていないのではないかと心配な気分にさえなります。

文章を作る時は「悪魔のような細心さ」を持ちましょう。私も気をつけなきゃ。

 

まあ、私もこうしてあらましを書いていますが、彼に対して怒っている気持ちというものはもはやさほどありません。自分の発言がプロレス界のためにならないものだと自覚した時点で、被差別者の側に思考を及ばせたであろうし、今後も表現を行う上で考慮を入れるようになるだろうと思えたからです。

私が個人的に怒りを覚えたのは、今回の件を横から「大したことじゃない」と庇った普通の日本人たちに対してです。

すでに問題が提起されたにも関わらず、相変わらず見て見ぬふりを続けるということは、差別の共犯者であり続けることを選び取ったことと変わりません。

この男性優位が当然とされている世界に生まれ、幼い頃から女性蔑視的なコンテンツを浴びるようにして育った多くのごく普通の人たちが、そういった考え方から脱するのは非常に困難なことでしょう。それはわかっています。

男性だけでなく、楽に生きるために差別的現状から目を背け、ミソジニーに染まった思考を内面化した女性たちも大変多いのが現状です。

うんざりするような世界ですが、しかしそこであきらめてしまっては、この状況は変わりません。私自身がいやだというのもありますが、何より友達や好きな選手の娘さんたちにこんなクソみたいな気分を味わって欲しくないのです。

 

 おまけ:その後の顛末

 今回かなり迅速な処分が行われたことで、DDTの株はさほど落ちずに済んだようです。ミソジニー丸出しな男性ファンや、名誉男性気取りの女性ファンからは処分が重すぎるという声もあるようですが、妥当な処分だと思います。普通のコンプライアンスがある企業だったら契約解除&更迭ですよ。

とはいえササダンゴ選手の心配どおり、この件を知ったプロレスファンダム以外の方からは、DDTという団体で起きた問題としてではなく、「プロレスってそういう差別発言がまかり通る世界なんだな」と大きく捉えられ、記憶されてしまっています。これは本当によろしくないことです。

私はプロレスというジャンルを愛していますし、戦いとスポーツと芸術がミックスされた素晴らしい世界だと信じています。ゆえにその世界の主役であるレスラーたちには、相応のリスペクトを受けて欲しいので、よく知らない人から「プロレス業界って野蛮で後進的」と思われているのを見るにつけ、大変悲しい気持ちになってしまいます。

 

またTwitter上では、男色ディーノ選手のフォローが良かったという層と、彼の問題を誤魔化すような茶化しに失望する層が8:2くらいの割合で別れたようです。

私は失望している側なんですけど。だってそもそも最初のこのツイート。

 明らかに「不正解」の事例に対して「正解も不正解もない」というふんわりした肯定を示しているのは、どう考えても許容できるものではありません。本人は「喧嘩両成敗」くらいの気持ちなのかもしれませんが、差別という事実について中庸な態度はありえません。「ちょっとだけ差別してるけど許して」などという態度を被差別者がOKとするわけがありません。

というか、ディーノ選手は私が上記に延々あげたような問題点をわかった上で話題の焦点をずらしているようにしか見えないんですよ。

我ながらササダンゴ選手は無自覚であろうと断じ、ディーノ選手は意識してやっているだろうと考えるのはまあ彼らのキャラクターの差でしかないのですが……。

ディーノ選手はDDT総選挙でも常に上位の人気者。Twitter上でも含蓄のある人生相談などをしていて、皆が「嫌いになれない」立ち位置を確立していらっしゃいます。私も色々どうかなと思うところもありますが(ゲイ=変態のステレオタイプギミックはゲイコミュニティーに属しないゲイ男性が特に嫌がるものであるという話を知って以来複雑な気分です)、基本的に好意を持っています。

その人が「友達だから」と言うことの威力は、元からのDDTファンや彼を知るプロレスファンには非常に有効です。先ほども書きましたが、恐らくこれはわかった上で火消しをやっているのでしょう。

ただ逆に、彼のことをよく知らない人間からすれば、何いきなり生ぬるい言葉でミソジニストを庇っているの? 「失言」レベルに問題を矮小化をするのはどういうつもりなの? という話です。

一度ササダンゴ選手に怒った人たちの間でも、その後の反応が分かれたのは、ディーノ選手の人柄を知っているか知らないかの差が大きな要因でしょう。特にプロレスはプロレスでも、アメリカンプロレスのファン層が憤っていたのはそういうことだと思います。

そして実際、「次の新宿大会」で、ディーノ選手は見事にこの件を「ネタ」として丸め込んでしまいます。

 

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ツイッター炎上のスーパー・ササダンゴ・マシンがリングで謝罪=DDT (スポーツナビ) - Yahoo!ニュース

 

 見事な火消しの手並みだとは思いますが、「正解も不正解もない」などと言ってやんわりと差別意識を肯定し、差別への怒りを「失言を叩く」レベルのちょっとした癇癪程度に引きずり落としたことは私は絶対に忘れません。

最も注意すべきは、こういうわかっていそうでわかっていない(あるいはわかっていて無視をする)、口のうまい人だということを改めて確信させられました。

 今回の件に関しては、許すが忘れない、というのが個人的な結論です。

 

このエントリはあくまで記録と検証のためにまとめたものですし、処分がされた今、もう一度上述の選手たちを糾弾しようという気持ちは私にはありません。

ただ、今回の件を機にファンも含めてこの問題に触れた人々が、女性ファンや女性の置かれている社会的立場に関してきちんと捉えなおしをしてくださることを願うばかりです。

*1:※実はフィットタイプではない形の女性向けTシャツも、女性人気の高いスターに限って、90年代後半すでに販売されていた模様。袖だけがぴったりと絞られたかわいいデザインで、何故これがなくなってしまったのか残念でなりません